人を活かす組織⑨~ポジティブな自己イメージをつくる 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-312
前回のODメディアは、防衛メカニズムについて学びました。今回は、防衛の無駄なエネルギーから脱出し、ポジティブな自己イメージを持つことについて学んでいきます。まず、ポジティブな自己イメージがもたらす行動とは、どのようなものかを見ていきましょう。
- 決断ができる
- 責任が負える
- 傷つきにくい
- 勝ち負けにこだわらない
- 他者の意見に柔軟である
- あるがままの自分を受け止める
- 内発的動機を重視する
- 自分の目的に向かって努力ができる
- 自分は自分という存在を自然にだせる
- 愛そうとする/信じようとする
- 話が聴ける
- 現実を受け止めようとする
- 思考が活発になる(頭がよくまわる) など
あらゆる人間関係には、現実の部分と歪みの部分があります。歪みの部分とは、自分勝手な見方、あるいは思い込んでしまっている見方です。「私はあの人よりすごいんだ」と思うのも、「私はあの人と比べて全く駄目だ」と思うようなことです。
なぜ歪みの部分があるのかといえば、それは私たちが「自分を他者と比較するから」です。アドラーは、「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」といいます。対人関係の軸に「競争」があると、人は対人関係の悩みから逃れられないものです。人は、対人関係の中で「私は正しい」と確信した瞬間、すでに勝ち負けの世界に足を踏み入れていることになります。したがって、劣等感は、他者と比べることによって沸き起こる感情であるといえます。他者と比較して優越感に浸るのも、劣等コンプレックスの裏返しです。権威づけなどは、優越コンプレックスの最たるものでしょう。一方で、健全な劣等感とは、「理想の自分との比較」から生まれます。ですから、大切ことは「自己肯定ではなく、自己受容」です。自己受容とは、ありのままの自分を受け入れることです。自己肯定は、自分が正しいという感覚が入ります。今の自分を受け入れるから、できない自分が見えて、成長・向上できるのです。 自分自身でないものになろうとする幻想に生きても、それは成長につながらないのです。今の自分を受け入れ、理想の自分に向かって努力する。努力の過程は、計画できない出来事への対処の過程でもあります。ですから、その一瞬一瞬を真摯に生きることが理想の自分に近づくことになります。シュッツのヒューマンエレメントもこの考え方・哲学を基礎にしています。
防衛メカニズムは認知のゆがみに基づいているので、私が自分自身についてどのような感情を持っているのか、という気づきが認知の正確さに影響を与えます。自己への気づき、自己理解は、自己成長の重要な土台なのです。
さて冒頭で、「防衛の無駄なエネルギーから脱出し、ポジティブな自己イメージを持つことについて学んでいく」と書いています。ネガティブな自己概念を言語化するのは、とても難しいものですが、シュッツは、自分の体験から以下のような方法を示しています。それには「堕落する実習」という、ちょっとドキッとするタイトルがついています。
【堕落する実習】
- 各自が、自分がもっともやっているだろう防衛の6つ典型(前回ODメディアで説明)を思い起こす。
- その典型を他のメンバーに「どのようにやるか」教える。その際、実際に防衛行動を演じるようにする。
- 演じた後、どのように感じたかを「私」次に「他のメンバー」の順で話してもらう。
この実習の目的は、防衛的であることは、どのような感情を持つのかを感じてもらうことです。実習では多くの人が、自分が防衛していることを見つけると、非常に愉快でつい笑ってしまう自分がいることを発見します。防衛ということを理解すれば、突然否定的なエネルギーを爆発させなくても良いし、防衛行動そのものを恐れる必要がないということが分かります。グループのメンバー全員で防衛について探求することは、防衛という心理状態の人間らしさを認め、価値判断無しに防衛的だった時とその理由を調べることに私たちを導き、結果として防衛的行動をやめることを選択できたのです。逆説的ですが、無理に理想の自分を発見しようとするのではなく、防衛機制を理解することによって、私たちは自分をもっと大切にし、もっと満足のいく自分になる方法を発見できるでしょう。
アドラーが言うように、健全な劣等感とは「理想の自分との比較」から生まれます。私が望む私自身と私が認知する私自身が一致した時に、ポジティブな自己イメージを持つことができます。ポジティブな自己イメージを持つことができない理由は私自身にあります。結局、私たちは自分の感情や行動を選択しているのです。ネガティブな自己イメージを持つのも、そうすることで何らかの見返りを得ようとしているのです。例えば、私はリーダーシップを発揮したいのだが、実際はそうしていない場合、リーダーシップを発揮することで、みんなが離反してしまうかもしれないという恐れから、リーダーシップを発揮しないようにしているのです。私が自己主張をせずみんなに合わせていれば、私は少なくともみんなから拒絶されずに済みます。堕落する実習以外に、防衛や見返りに気づきポジティブな自己イメージ(self-esteem)を育てるには、いかの3つの方法があります。
- 自分の従来の行動の根底にある「ものの見方や考え方」を探ると共に、望ましい新しい行動を実践する。
- 自分自身の不満足な部分を見つけ、それを続けることでどのような見返りを得ているのかを探る。通常それは、現在の行動を続けさせるインセンティブになっている。そしてそのような自分に満足するのかを問うてみる。
- 私のこれまでの歴史を振り返り、どこで、何がきっかけで「理想的な自分」あるいは「なりたくない自分」という考えを持つようになったのかを探る。そして、これからもそのような自分を選択するのかを問うてみる。
以上の3つは、思考の循環プロセスであり、③までいけば、また①に戻って自己探求することで、どのような自分を目指すことが自分にとってJoy(活き活きする自分)なのかを見つけることができるでしょう。
参考資料:自己と組織の創造学
この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。