2025年1月16日
ODメディア
人を活かす組織④~ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-307~
組織の中で、一人ひとりが自己への気づきを促進することが、ひいてはチームや組織全体の効果性と生産性を高めることにつながります。このような考え方は、「Business is Business」という考えとは相性が悪いかもしれませんが、「Business is Business」という考えが組織に高い生産性をもたらしているかといえば、そうとは言えず、むしろ何とかしたい問題が解決されないままになっていることが多いのも事実です。一人ひとりが自己への気づきを促進することが、ひいてはチームや組織全体の効果性と生産性を高めるという考えは、ハイフェッツが言うところの「技術的問題への対応ではなく、適応を要する課題への対応」が求められる今日において、改めて、私たちが探求しなくてはならない課題であるといえます。HEA(ヒューマン・エレメント・アプローチ)は、従来とは異なる仮説や考え方を持っていますが、以下その仮説について見ていきましょう。
セルフエスティーム(ポジティブな自己イメージ)
- 一般的に信じられていること:ポジティブな自己イメージ(あるいは自己効力感など)に関心を持つことは個々人のエネルギーを仕事からそらしてしまう。自分の事を良く思える活動が必要なら、従業員は、それをプライベートな時間に行うべきである。職場は仕事に集中すべき場であって、個々人の事に集中する場所ではない。
- ヒューマン・エレメントの仮説:セルフエスティーム(ポジティブな自己イメージ)は、創造性、動機づけ、生産的な仕事を行うためのすべての問題にかかわる人間の核心である。組織活動の主要な目的の一つは、全員のセルフエスティーム(ポジティブな自己イメージ)を最大限に高めることにある。
真実
- 一般的に信じられていること:私たちは、思慮深く、他の人の感情を傷つけないように注意し、プライバシーを維持し、無力感を感じないようにして知っていることを話さなければならない。多くの人は、真実を受け入れることができず、すぐに怒ったり、傷ついたりします。マネジャーは、個人のプライベートな問題、人事評価、給与、組織の秘密について真実をそのまま言うことを避けなくてはならない。
- ヒューマン・エレメントの仮説:ほとんどの組織では、組織の合法的な秘密はほんのわずかである。秘密は有害である。組織の様々な立場の人が真実を話せば、組織はより健康で、より生産的になる。人々は一般に考えられているよりもっとうまく真実を受け止めることができる。
チームワーク
- 一般的に信じられていること:チームづくりは、チームの目標と使命を明確にし、いろいろな役割とメンバーの個性や強みのより良い組み合わせを尊重し、互いのコミュニケーションスキルを向上することによって達成される。
- ヒューマン・エレメントの仮説:チームワークがうまくいかないのは、メンバーの個性や考え方の違いから起こるのではなく、メンバーの誰かが自分の態度や考え方にこだわる柔軟性のなさから起こる。人々が自分に対してポジティブな自己イメージを持っていないときに起きる柔軟性のなさは、その人が抱いている防衛と恐れが原因である。したがって、チームワークを改善するには、恐れをオープンに取り扱い、その人の柔軟性を取り戻すことが必要である。
エンパワーメント
- 一般的に信じられていること:エンパワーメントは、メンバーが提供した意見を基にリーダーが決定する参画マネジメントが土台となる。
- ヒューマン・エレメントの仮説:エンパワーメントは、メンバーに権限を与えることで達成される。権限を与えられた人たちはリーダーと同じようにチームに参画し、最終的な決定は、全員が賛同して行われる。
責任
- 一般的に信じられていること:それぞれの仕事において誰に責任があるのかをはっきりさせることが大切である。そうすることで、何かうまくいかないときは、その責任の所在を明確にすることができ、問題をより早く課帰結することができる。
- ヒューマン・エレメントの仮説:何かがうまくいっていないときは、関係している全員が100%の責任を持っている。大切なことは、誰かを非難することではなくチームにいる誰もが問題を解決しようと努力することである。
変化
- 一般的に信じられていること:変化を起こすには、公式、非公式のプログラムに従業員を参画させ、目標、達成期限、実行手続き、状況対応プランなどが含まれる変革計画に沿った行動と成功に対して報酬を与える。
- ヒューマン・エレメントの仮説:変化に関係する全員が、変化を起こすことに賛成する決定を下せば、変化に対して主体的に行動する。当事者が変化に対して賛成する意思決定をしていなければ変化に対するリバウンドが起きる。人々は、なぜ変わりたくないのか、そのままでいることの見返りは何か、新しい状況に対する恐れは何かを十分に話し合い、その上で変化を起こす決定を行えば、変化のプログラムはうまくいく。
倫理
- 一般的に信じられていること:倫理的な行動には報酬を与え、違反したら厳しく罰すれば、人は倫理的な行動を選択する。
- ヒューマン・エレメントの仮説:人々は、自分自身について良く感じれば倫理的に行動し、そして、倫理的に行動することから喜びを感じる。恐れや罰則からもたらされる倫理的な行動は、誘惑に対して不安定で無力である。
意思決定
- 一般的に信じられていること: 決定は主観的でなく、客観的に下されなければならない。感情を抑え、全員がプロとして行動することが大切である。
- ヒューマン・エレメントの仮説:どのような場合も感情は存在する。一人ひとりが感情に気づき、それを表現し、感情がいつ・どのようにして物事の見方や意思決定をゆがめるのかを意識することがより良い意思決定や創造性の向上につながる。
リーダーシップ
- 一般的に信じられていること: リーダーはビジョンを持ち、そのビジョンへの協力を人々から取り付け、断固として素早く行動しなければならない。
- ヒューマン・エレメントの仮説:リーダーは自分の能力を含め、グループ全員の能力を活用しなくてはならない。決定することに最も資格がある人々と、決定によって最も影響を受ける人々と一緒になって決定を行うことが、実行の効果性を高めることになる。
このように見ていくと、組織や人間の潜在能力を発揮し高める何らかの理論やモデルを活用しようとする場合、リーダーは従来の「ものの見方や考え方」という哲学を再考しなくてはならないことが良くわかります。すなわち、人間集団としての組織が最高のパフォーマンスを発揮するには、やはり、リーダーの姿勢や役割は極めて重要であるといわざるを得ません。
参考資料:自己と組織の創造学
この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。