• 人を活かす組織②~ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-305~

人を活かす組織②~ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-305~

2025年あけましておめでとうございます。本年もODメディアをよろしくお願いいたします。さて、今年第1回は、昨年からの引き続き「人を活かす組織」です。

 

  1. 個人とチームの業績を向上させるにはどうしたらよいだろうか?
  2. メンバーの成長と幸福(Well-being)を支持しながら、チームや組織の目標達成をするにはどうしたらよいだろうか?
  3. リーダーは、チームが目標を達成するためにどのようにリーダーシップを発揮すればよいだろうか?

このような問いは、DXが叫ばれる現代にあってもリーダーやマネジャーの責務として考えなくてはならない問です。ヒューマン・エレメント・アプローチ(以降HEA)は、このような問いに対して一つの方向性、解決のアプローチを提供します。HEAは、一人の人間として、またグループのメンバーとして、自己への気づきを深め、ポジティブな自己イメージを向上させ、個人とチームの潜在能力を発揮せしめることに貢献するものです。そのために、HEAは以下のような原則があります。

  1. 私たちが持っている能力を十分に発揮する根本にあるのが自己理解である。
  2. 組織やリーダーシップの問題を解決するためには、自己への気づきが解決の最初のステップである。
  3. 深い自己への気づきと自己受容は、ポジティブな自己イメージの構築に通じる。
  4. 人は自己への気づきが深まりポジティブな自己イメージが高まると、仲間に対して隠し立てをしないし、誠実になる。結果、防衛や隠し立てといった人間関係の葛藤のために費やしていたエネルギーを生産的な仕事に向けることができる。

 

HEAのこのような原則は、ビオンの集団無意識の理論にも見ることができます。ビオン理論とは以下のようなものです。

  • 集団は常に、課題を意識的にうまくやろうとする「意識的に仕事をしていく側面:A」と、周囲との関係性を気にしてときに「幻想に怯えたり不安を感じたりして仕事をしている側面:B」がある。
  • AとBが分かれている場合、集団は生産的な行動を取ることができるが、AとBが重なると集団は「不安や恐れを解消しようとする行動」に忙しく、生産性を落としてしまう。そしてこの「不安や恐れを解消しようとする行動」は、無意識的に出てくるので当事者が意識的に是正しようとしても難しい。
  • 「不安や恐れを解消しようとする行動」は、これが強くなると典型的に以下の3つの行動に現れる。
    • 集団のリーダーに対する「依存または反依存」
    • 依存派と反依存派の分派行動
    • 結果として「闘争または逃避」

リーダー自身もこの渦の中にいて、自分で自分の行動を統制できない。そして、集団はリーダーを亡き者にし、新しいリーダーを求める。

つまり、ビオン理論によれば、チームメンバーが幻想に怯えたり不安を感じたりして仕事をしていると、それはチームの生産性に負の影響を与えるというものです。日本における昨今の企業不祥事を振り返ってみると、この理論が提唱する事象が数多く見られます。例えば、ビッグモーターの保険金不正請求、ダイハツ工業の型式認証不正取得、浅川組のトンネルコンクリート強度不足、など個人の問題ではなく、そのような行動をとらせた組織の問題といえます。それは、権力を持っている上層部と現場との関係性の中で起きている問題ともいえます。HEAは、この関係性という厄介な問題に対して、解決の方法を提供していきます。

例えば、会議やミーティングが生産的でない場合、HEAは話されていないものに気づき、隠されたものに焦点を当てます。それは、チームメンバーは「私は阻害されている、私は重要な存在ではないと感じていないか?」、「自分たちには権限が全くないと感じていないか?」、「嫌われていると感じていないか?」「嘘をつかれていると感じていないか?」「無視されていると感じていないか?」「メンバー同士、同じ役割を争っているのではないか?」などです。このような個々人の不安や恐れがチームに機能不全をもたらします。したがって、チームや組織が真に生産的であるためには、以下のような環境をつくっていくことが求められます。

  1. リーダーを含めメンバー全員が自分を十分に知り、そして自分の強みを十分に表現するという環境を奨励する。
  2. リーダーを含めメンバー全員が、嘘隠し事をせず、誠実であり真実を話す。
  3. リーダーを含めメンバー全員が、自分の行動を感情に責任を持つ(私の行動と感情は、私が選択しているという自覚を持つ)。

これらの、人々のあり方(Being)と関係性(Relation)における目標が実現されたとき、チームは最も効果的で生産的になり、個人は達成感と満足感を感じることになります。また、チームの中の人間関係はお互いに満足するものとなり、一人ひとりが自分自身を最高であると思えるようになります。このようなことは、単にスキルというものではなく、一人ひとりが自分の内面・心に対して真摯に省察し、自分の感情と行動の選択に影響を与えているものを理解した時に初めて現実のものになるのです。(続く)

参考資料:自己と組織の創造学

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。