人を活かす組織①~304 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-~
組織とは、どのような見方や定義をしたとしても、それは人々の集まりであることに変わりありません。要するに、組織とは人々の集まりなのです。人が集まり、何らかの目的や目標に向かって活動をしていけば、そこには必然的にさまざま「関係性」が出現します。心理学者のアドラーは、人間の悩みは、すべて対人関係の悩みであるといいます。現代社会は、好むと好まざるとにかかわらず、対人関係の軸に「競争」があります。それによって人は自分と他者とを比較せざるを得ず、対人関係の悩みから逃れられないことになります。人は、対人関係の中で「私は正しい」と確信した瞬間、すでに権力闘争(勝ち負け)に足を踏み入れていることになります。組織の中は、このような関係性がいたるところに存在します。そして、これをそのまま放置すれば人は取り組まなければならない課題に取り組むより、関係性の問題を如何に解決するかに悩まされることになり、個人としても、チーム・組織としても生産性が低下し、そこにいる人たちの健康・Well-beingも低下します。ODはヒューマン・プロセスに焦点を当てますが、今回からのODメディアは、ヒューマン・プロセスを理解するモデルとその活用を学んでいきます。参考とするのは「自己と組織の創造学:W.シュッツ」です。
最初にW.シュッツ(故人)の経歴を紹介します。彼は1951年にUCLAにてPh. Dを取得し、ハーバード大学、シカゴ大学、カリフォルニア大学バークレイ校、アルバート・アインシュタイン・メディカルスクール、などで教鞭をとり、エサレン研究所でも活動をしました。セラピー、個人の潜在能力開発、その研究の組織への応用などで世界的に高い評価を得た人であり、「Mr. Truth」というニックネームがあります。筆者も40歳代にW.シュッツがメイントレーナーをやった、サンフランシスコでの2週間のエンカウンターグループに参加したことがあります。
2000年頃より隆盛になったポジティブ心理学やポジティブ組織開発も、人の健康・人のベストな状態という普遍的価値の追求を目指していますが、W.シュッツが提唱したヒューマン・エレメント・アプローチも目指すところは同じです。シュッツはその概念について「Joy」という言葉を使っていました。ODメディアでは、「組織文化とOD」「組織の<重さ>」「組織開発の概念と技法」といったものを紹介してきましたが、ここで改めて「人およびその関係性」に焦点を当てることはODの実践という視点に欠かせないと考えました。複数回の掲載になりますがお付き合いいただけると幸いです。
人々が自分の能力を最大限に発揮し素晴らしいパフォーマンスを生み出すためには「ポジティブな自己イメージ:self esteem」がカギとなります。ポジティブな自己イメージを持つためには、自分自身を知り、自己の防衛メカニズムを知り、なぜ自分が特定の行動パターンに柔軟性なく拘っているのかを理解することが大切です。防衛や非難的な態度がなくなって初めて人は成長することができます。このような考え方やアプローチは、成人発達理論やポジティブ心理学でも同じです。このアプローチはチームにも応用でき、チームがうまくいかなくなるのは、人々の意見の違いによるのではなく(これは表面的な現象)、人々が柔軟性を無くし自分の立場にこだわるからなのです。この柔軟性のなさというのは、自己主張が強く求められるアメリカと、他者の眼を見て態度を決める日本では表面的な現象は異なると思いますが、日本の場合も「他者から非難されないように振る舞う」という点で自分のあり方に固執しているのです。いずれもそれは、個人の不安と恐れから起こります。アメリカの場合は「馬鹿にされる、無能扱いされる」ということに対する恐れや不安が過度な自己主張につながりますし、日本の場合は「のけ者にされる、受け入れてもらえない」ということに対する恐れや不安が、あまり自己主張をするのではなく他者に合わせるという行動を選択させるのです。ポジティブな自己イメージ(self esteem)は、これらの例のすべてに関係します。では、ポジティブな自己イメージはどうやって開発されるのでしょうか。ヒューマン・エレメント・アプローチは、そのプロセスを明らかにしていくメソッドです。(続く)
参考資料:自己と組織の創造学
この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。