センスメーキングと変革:対話と組織変革② 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-301~
集団の問題解決には、自分も問題の一部だと気づくことがとても重要です。
皆さんの中には、チーム活動に対して何か言いたくても言えないという経験をした方はたくさんいらっしゃると思います。「そんな目標で良いの?」とか、「それって俺がやるの?」とか。でも、「ここで言うと角が立つし」とか、「それって自分勝手じゃないか」とか言われそう、ということで黙っておくことってよくある話です。でも、これを放置しておくと何時か感情が爆発し、チームがガタガタになるという、そんな経験もあるでしょう。チームワークにおいて適材適所という考え方は人気がある考え方です。しかし、チーム内に関係性について不安や恐れがあり、言うべきことを表明できないとどうなるでしょう。チームは柔軟性がなくなりチームの力は弱くなっていきます。
集団決定やチームワークを良くする仮説に「一人ひとりが、なぜそのような態度や行動を取ってしまうのか、ということに対する気づきを高めれば、問題はみんなで協働して解決するものになる」というものがあります。これはヒューマン・エレメント理論で有名なW.シュッツによるものです。彼は、オープンネスという言葉でそれを語っています。オープンネスとは、「チームのメンバーが、個人的に脅威を感じていても、お互いにそれを認めることが出来るほどオープン(開放的)になっている。そしてチーム全体に、それらの感情を認める気持ちがある」状態のことです。これにより結果として、個々人がプラスの逸脱行動を選択できるというものです。オープンネスは、A.エドモンドソンによって心理的安全という概念で紹介されています。
真実を語れるチームは高いパフォーマンスを発揮します。なぜかといえば、チームでやっていることに対して後ろめたさがないし、疑問が解消しているからです。W.シュッツによればオープンネスには以下の7段階のレベルがあります。
- 気づいていない、自己欺瞞
0 隠している、言わない
1 相手のせいにする
2 自分の気持ちを話す
3 自分の気持ちの理由を言う
4 あなたが私をどのように見ているかを話す
5 自分が自分をどう見ているかを話す
レベル5の自分が自分をどう見ているかを話すとは、自己評価への自分なりの捉え方を話すという事です。それは自己肯定感に対する自分自身の見方の吐露です。例えば、「あなたが私を嫌っているように思えるのは、実は私が自分自身を自分で受け入れていないからです。私は、あなたがこんな私を認めることがあるなんて信じられないんです。だから、本当はあなたのせいではなく、私が私を受容していないのが問題なんです」というようなことです。これ、きつい作業です。
筆者は、W.シュッツが主催する2週間のエンカウンター講座に参加したことがあります。
(注)エンカウンター・グループは、カール・ロジャースが開発した集団心理療法です。エンカウンターとは出会いの意であり、エンカウンター・グループはメンバーがそれぞれ本音を言い合うことにより互いの理解を深め、また、自分自身の受容と成長、対人関係の改善などを目指すものです。
日本からは私を含め2名、その他アメリカやイギリスから10名、計12名の参加でした。参加者の中には湾岸戦争で司令官のシュワルツコフの側近として従軍した人もいました。講座は3つのパートに分かれて実施されます。午前中はW.シュッツが提唱する「ヒューマン・エレメント概念とその実践方法」について3人一組で議論し、プレゼンテーションの仕方をまとめます。午後は準備したプレゼンテーションを実施し、参加メンバーやシュッツからフィードバックをもらいます。そして夕食後は、シュッツが中心となったエンカウンターが実施されるという構成です。夕食後のエンカウンターでは、例えば午前中のプレゼンテーション準備で起こった3人の関係性が話題になることがあります。ある人が、他の2人に不満を持っていたとか、それに対して他の2人は気づいていなかったとか、気づいていたけど黙ってやり過ごしたとか、そしてなぜそのような行動を取ったのかなどが話し合われます。
日が経つにつれて、エンカウンターの話題は講座の中の出来事(here and now)だけでなく、私が経験した出来事(there and then)も話し合うようになっていきます。そのプロセスの中で、参加者は自分の行いの奥底にある自分なりの見方や考え方、思考の偏りなどを振り返ります。それは、自己との対話に他なりません。最近の文献では、「なぜ、弱さを見せあえる組織が強いのか」でロバート・キーガンが提唱していることと同じです。キーガンは、免疫マップというかなりテクニカルな方法を提唱していますが、変容には自分と向き合うことが大切なのですね。
集団のオープンネスで参考になるのがC.アージリスのモデルです。彼は、集団が問題解決に踏み出していく7つの段階を提唱しています。では7つの段階を見ていきましょう。マイナスやレベル0を入れると9段階になります。
マイナス 問題を感じていない
レベル0 問題を隠そうとしている
レベル1 問題を感じているが何もできないと思っている
レベル2 不安や不満を非公式に周囲に投げかけている
レベル3 不安や不満の原因を論理的に表明している
レベル4 不安や不満の根底にある感情をチームとして聴こうとしている
レベル5 問題の根底には、人と人との関係があるという事分かっている
レベル6 問題の発生源に一人ひとりがどのように関係しているかを話す
レベル7 個人としてもチームとしても問題の解決に一歩踏み出している
C.アージリスのモデルによれば、自分も問題の一部だと気づくということはレベル6の段階です。真実を語れる集団とは、我々のチームで起こっている問題にメンバーが当事者として関わっているということを認め、それを話し合える集団ということを意味します。このようにオープンネスは関係性の中で理解すべきものですが、最後は自己との対話になります。各人が他者を非難するのではなく自分はどうすべきかを考え実践するとパフォーマンスが高いチームになります。
この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。