センスメーキングの変革:大規模対話集会③ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-299~
変革活動で問題解決したい側、つまり依頼者側は「計画的な方法」を期待する向きがあります。それは、対話の場がより良くコントロールされ、期待する方向に参加者が変わっていくという姿です。しかし、フューチャーサーチは個々人が劇的に変容することを目的にしていません。フューチャーサーチのファシリテーターは、情報が良いか悪いか、完全か不完全か、役に立つか立たないか、適切か冗長なのかなどについての判断はしません。言葉や言動、願い、反応など、参加者の言動はすべてその参加者にとってふさわしいものであると考えます。何が起ころうと、善きにつけ悪しきにつけ、それらは参加しているステークホルダーの意志を表現したものです。ファシリテーターは、参加者が新しい協力方法を発見することにより、個々人が共に行動を起こしていく可能性が出てくることを支援します。大切なことは、限られた時間の中で、参加者ができるかぎり深く、そして人間的感情をもって「今ここにある現実」を経験してもらうことです。そのためには、今認識している過去、現在の感情や行動、そして現在持っている未来への情熱などを共有する必要があります。そうすれば人々は、自分たちが何をしたいかについて、最も合理的な選択をする可能性が高いのです。人々はこれから何をすべきかを見つける前に、「今、ここにある現実」のすべてをお互いに確認し合うことによって、変化し続ける世界に対処することができるようになります。
【矛盾への対応が問題解決への協働姿勢を生み出す】
フューチャーサーチは、タイムマネジメントはしますが、話し合いの場をコントロールするということはしません。例えば、実施する人たちは以下のようなことを気にして質問するでしょう。
- 全ての時間に出席してもらうのですか
- どのようにして参加者に理解させるのですか。
- どうやって他者のいうことに真剣に耳を傾けてもらうのですか
- どのようにして積極的な対話を促進するのですか
- どのようにして、〇〇さんの前で本当に考えていることを話してもらうのですか
- どのようにして実践的なアクションプランをつくってもらうのですか
などなどです。つまり、「どのようにするのか:how to do」ということについて明確に統制できる状態をイメージしたいのです。これは、マネジャーにとってとても関心が高いことであり、自分のコントロールが効かないということは避けたいことなのです。ファシリテーターは、そのようなコントロールはしません。フューチャーサーチの精神は、自己管理と発見です。ファシリテーターは、参加者が共にリーダーシップをとり、自分たちで取り組みを組み立てることを期待します。そして、成功する方法(前回のODメディアで紹介している)を実施する人たちに納得してもらいます。つまり、フューチャーサーチを実施するには、その構造を理解してもらい、準備してもらうことがとても重要になるのです。フューチャーサーチは万能薬ではなく、「じゃフューチャーサーチの方法でミーティングしてみましょう」というようなやり方ではうまくいきません。なぜ実施するのか、目的やアジェンダを明確にしておくこと。幅広いステークホルダーの参加があることなどが欠如していることをファシリテーターは補えません。フューチャーサーチに参加していない人に影響を与えることはできないし、彼らが参加していない中でつくられたアクションプランに責任を持たせることもできません。
したがって、企業で実施する場合に注意しなくてはならないことは、例えば「若手メンバーにフューチャーサーチを実施し、その結果をトップマネジメントに提案する」という方法は役に立たないということです。本当に組織変革の意志があるなら、トップマネジメント以下、その変革に本当に影響を及ぼす人たちが参加することが必要なのです。ですから人選はとても大事です。一例でいえば、筆者は、ある大手企業グループのグループ会社が、これまでの役割と事業構造を変革する必要に迫られ、そのために管理者を対象に将来像とそこに至るアクションプランを作成したいという意図の下でフューチャーサーチを実施したことがあります。しかし、この参加者には肝心の「本体:親会社メンバー、関連会社」の参加がかないませんでした。懸念した通り、会議の中では「親会社・関連会社と対象会社」の関係性について納得いく情報交換が行われず、それまでの構造の中での新しい役割とタスクの確認になってしまいました。ですから、このケースはフューチャーサーチを実施したとは言えません。会議のプロセスは、フューチャーサーチの5つのプロセスを実施しましたが、中身が伴っていませんでした。
(注:フューチャーサーチ5つのプロセス。:以降はその会社での「問」の仕方)
- 過去を振り返る:これまでわが社はどのような歴史をたどってきたのか
- 現在を探求する:わが社に影響を与える環境はどのようになっているか
- 理想的な未来のシナリオを作成する:わが社は〇年にはどのようになっていたいのか
- コモングラウンドを明確にする:〇年のビジョンを言語化する
- アクションプランを作成する:ビジョンを実現する取り組み課題を明確にする
繰り返しになりますが、私たちは、コントロールが効かなくなること、触れたくない課題についてオープンにすること、できそうもないことを要求されることを恐れています。しかし、このような恐れに踏み込むことが、新しい関係性と機会を生み出します。私たちは、自分の外にある環境やシステムに働きかけるだけではなく、自分自身について取り組む必要があります。コントロールできるのは自分だけであり、参加者がそのことを理解すれば
新しい機会と変化が見えてきます。
参考文献:フューチャーサーチ
この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です