センスメーキングの変革:大規模対話集会② 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-298~
大規模対話集会の代表的方法であるフューチャーは、概ね3つの活用目的があります。
- 組織やコミュニティの将来に対する共有ビジョンを作成し、それに向けて行動を促す
- 全てのステークホルダーが、共通する意図に基づき自分たちのアクションプランに責任を持つ
- 人々がすでに共有しているビジョンを実行に移すよう促す
この3つの目的は、変わっていかなくてはならないと感じている様々な組織やコミュニティで高い必要性を持っている課題です。では、このような目的に対して、当該組織やコミュニティはどのような対応を選択しているのでしょうか。参考としてラーニング・カーブという図を見てみましょう。
ラーニング・カーブ(フューチャーサーチより)
なかなか示唆に富んだ図です。それぞれの象限での代表的例では、専門家が問題を解決するのはSQC、全員で問題を解決するのはQCサークル、専門家がホールシステムを改善するのはいわゆる第三者が介入する診断重視の変革活動、全員でホールシステムを改善するのが大規模対話集会となります。ここでいう全員は、ある種比喩であり、10000人の会社が同時に、同場所に10000人が集まるわけではありません。QCサークルは職場単位であり、フューチャーサーチは重要なステークホルダー(60~80人)です。筆者はすでに数社での実施経験がありますが、フューチャーサーチを実施したのちに、変革行動が持続的に実施されるかどうかは、やはり経営者・トップマネジメントとフューチャーサーチ実施の構造に影響されるといえます。フューチャーサーチ成功の条件として、以下のようなことが挙げられます。
- ホールシステム(問題に関係する重要な人々)が一堂に会する
- 対話の場において、広い視野で対話すると同時に、行動は地に足がついたものであること:着眼大局着手小局
- 問題と(ステークホルダー間の)対立に注目するのではなく、共通の拠りどころ(コモングラウンド)と未来に焦点を当てる
- 参加者自身による対話プロセスへの積極的参加・自己管理
- 全日程(通常は3日間)への完全な出席
- 快適な話し合いの場づくり
- フューチャーサーチ終了後の活動についての責任を公にする
大切なことは、ただ対話して認識を広げるのではなく、当該テーマについていろいろな影響を受けたり与えたりしている当事者が一堂に会して、対話後責任をもって何らかの変革活動を実践していくということです。対話は、テーマに対して過去を振り返り、現在はどうなっているのかを探求し、未来のシナリオをつくって、その実現のためのアクションプランを作成するという流れになります。このプロセスの中で、参加者はそれぞれのセンスメーキングに挑戦し再構成することが求められるわけで、当然ですが感情的な揺れ動きがおきます。ワイズボードとジャノフはこれを「ジェットコースターに乗る」と表現しています。つまり、混乱、希望と絶望の交錯は必然であり、それを避けることはしません。答えは参加者自身が見つけていく必要があるのです。大切なことは、参加者同士がお互いと向き合うことなのです。そのためには、参加者同士で自分たちが持っている情報を交換し、互いを傾聴することが必要です。人々は、理想や一貫性のない仮説、間違った情報、ステレオタイプ、判断などを含む、自分たちがつくりだした現実に身をさらすことで隠れた可能性を発見していくのです。ここまででお分かりのように、フューチャーサーチは、当事者が自分たちでホールシステム、すなわち人々の関係の中で起きていることを改善していく、という方法になります。専門家が「こうすればよい」ということを提示するわけではないのです。したがって、フューチャーサーチで取り扱うテーマは、ハイフェッツ(ハーバード大学教授)が言うところの「適応を要する課題」であり、「技術的問題」ではありません。フューチャーサーチはとても魅力的な対話型ODのスタートになりますが、何でもかんでもそこで解決できるわけではないということは承知しておく必要があります。
参考文献:フューチャーサーチ
この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。