センスメーキングの変革:大規模対話集会①~298 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-~
前回までのODメディアは、カール・ワイクの「センスメーキング in オーガニゼーションズ」に基づき、センスメーキングとは何かについて学んできました。今回から、センスメーキングを集団で再考し、新しいセンスメーキングを創造していく手法であるフューチャーサーチについて改めて学んでいこうと思います。ここで特にフューチャーサーチを取り上げるのは、提唱者の一人がマービン・ワイズボードであるということも関係しています。彼は、フューチャーサーチに取り組む前に「6Boxes Model」というリサーチモデルを活用した組織変革をやっていた人です。6Boxes Modelは組織の現状をある特定の要素から分析し、問題点を明確にして、その解決策を実行していくという「古いタイプのアクションリサーチ型OD」です。しかし、ある時点からその方法を放棄しました。以前、彼と直接話す機会があり、なぜ6Boxes Modelを放棄したかを聞いたことがありますが、彼は「当事者が、当事者自身で問題のとらえ方を認識し、それを自分たち自身で変えていかない限り、変化しない」というようなことを言っていました。
では前置きはこのくらいにして、フューチャーサーチの世界に入っていきましょう。フューチャーサーチ第2版(2009)のまえがきには、以下のようなことが書いてあります。
「この本は、組織やコミュニティの中でコモングラウンド(common ground:共通の拠りどころ)に基づく行動を持続させる方法を探している人のためのガイドブックです」。フューチャーサーチの特徴の一つが「common ground:共通の拠りどころ」です。common groundは、一般的にはビジョンとか我々の信条などといわれるかもしれません。フューチャーサーチの前提として、開発者のワイズボードやジャノフには、現在の世界は高い壁で分断されており、人々は孤立と不安に苛まれているという認識があります。ここでいう高い壁は、人々の異なる、相いれないと思っている認識、つまりセンスメーキングの違いです。このような違いは「解決すべき問題」ではなく、「受け入れるべき現実」なのです。センスメーキングの違い、つまり私たちの背景やモノの見方・価値観などの違いは「解決できない」のです。そうではなく、その違いを受け入れたうえで、それでも「コモングラウンド(common ground:共通の拠りどころ)」を見つけ出すことが大切なのです。それには、直接会って対話することがとても・とても重要です。そのような場を持つことで、人々は新しく生まれる連携を受け入れ、そのプロセスを通してステレオタイプ的なものの見方を修正していきます。人々は他人や自分にそれまで気づかなかった能力があることを発見します。また、考えもしなかったプロジェクトが実践されるようになることもあります。フューチャーサーチは、進め方自体はとてもシンプルです。それは「オープン・システムと、民主的な構造、そして人々に生まれつき備わっている知恵によって、人々は価値ある取り組みを共に実現し、コミュニティを見つけることができる」というものです。これはとても大切な概念ですね。言い換えると、オープン・システムは異なる人々が一堂に集まること、民主的な構造はそこに集う人たちが参画した対話をすること、人々に生まれつき備わっている知恵とは人を信頼すること、このような前提に立つことが価値ある取り組みを実現させ、コミュニティ(人々が集うより良い場や組織・社会)を創造することができるといえます。ですから、フューチャーサーチは単なるテクニックというよりは、哲学であり、それを実施しようとする人はその哲学を体現することが求められます。しかし、このような哲学があるとしてもフューチャーサーチは「お花畑ストーリー」ではありません。どのような変革も、リーダーシップがなく、資源がなく、参加者が相互依存関係(筆者注:互いを必要だと思う信頼関係)になければ成功しません。このような厳しい現実を理解したうえで実施する必要があります。
まず理解しておきたいことは、フューチャーサーチは対話の場にデータや情報を持ち込み、不確実性を減少させていく問題解決の場ではありません。ファシリテーターの役割は、対話を活性化させることです。しかしだからといってプログラムは固定化したものではなく、その場の対話で起きてくる意味生成的なプロセスを重視します。対話に参加する人たちは、世界がどのような仕組みで動いているかについて、非常に異なる地図を頭の中に持っています。人々がつながりを持ち続けようとするのであれば、それぞれの頭の中の地図をリアルタイムで見つけ出す必要があります。フューチャーサーチには、このための対話の手法がちりばめられています。
対話の中では、参加している人たちが混乱を引き起こすような情報や矛盾する情報を生み出すこともあります。ファシリテーターは、このような時に、意見の相違を解消したり、複雑性を減らしたりして、取り扱いやすい課題に絞り込むことはしません。むしろ参加者に、意見の相違や複雑性を自分たち自身で解消するための「対話の場」を用意します。参加者が、自分を含め、他者が言っていることに耳を傾け、理解するように促すことが大切なのです。そうすることで参加者自身が、説明や新しい情報の提供がなくても、実際に今取り組むべきことを発見していきます。このプロセスで大切なことは「不安は推進力になる」ということを理解しておくことです。課題に焦点を当て、詳細なデータを分析するミーティングは、不確実性から来る不安を除去し、回避しようとします。しかしそれでは、いつもの思考方法/センスメーキングを変容させていくことにつながりません。不安に自分たち自身で対処し、その不安がどこからきているのかを参加者自身が把握し対処することで、不安を変革のエネルギーとしていくことができるのです。(続く)
参考文献:フューチャーサーチ
この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。