センスメーキングとOD⑭~センスメーキングと組織変革7. 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-297~
ODメディアは、センスメーキング概念を組織変革・ODにおいてどのように活用していけば良いのかについて紹介しています。今回はその7つの示唆の6番目からです。
- 経験を共有せよ
組織文化の接着剤は「共有化された意味」といわれますが、ワイクによればこの言い方には問題があるといいます。何かの行いは、異なる経験を持つ個々人によって異なる意味として捉えられます。したがって共有された意味を手に入れるのは難しいといいます。確かにそうですね。日本国国旗に向かって敬礼することを愛国心の自然な表れと捉える人もいれば、軍国主義の名残であると忌み嫌う人もいるかもしれませんね。
ワイクは、経験は共有することができるといいます。そりゃそうですね。経験は共有することができます。これによって、人々に「あの時あんなことしたね」と振り返ることができ、それが共通の体験をした人の間では何らかのつながりを持たせることになるのです。例えば、会社の新入社員研修は、毎年同じことの繰り返しのようでいて、代々にわたって同じ経験を有することにより、振り返ってみればそれがある意味を持つことになります。そして、意味を共有したいのであれば、共有された経験が発生したすぐ後で、それについて振り返り的に語り、言葉としてみんながその言葉を語るような仕掛けが必要です。体験型研修が、その行為の後に直ぐに振り返り、体験で感じたことを言葉にして話し合うのは、意味共有を促すうえで大切なプロセスになります。
しかし、中には経験は共有されるが意味が共有されないということもあります。その時の対処の仕方は、経験に対して意味づけしない/ラベルを貼らないで、共有された経験をそのまま書き出していくというやり方です。要するに経験の細部を列挙していくのです。そこにどのような意味づけができるのかは偶発的です。そうかとハッと気づく時が来るのを待つということです。このようなやり方や見方からすれば、文化とは、そこで私たちが行ってきたものであって、行っているものではありません。文化を共にするということは、共通経験に関する物語を語ることです。つまり、あの時の私たちを思い出すことは、共有体験を思い出すことで共有された意味を思い出すことになります。人が、どうしてそれをやったのかと尋ねられたら、私たちはその経験があったからですと答えることができます。私たちの答えは、とにもかくにも同じ経験から生じています。この共通性によって、私たちはともに結びつき、お互いにその経験に付与した意味を理解できるのです。加えて、同じ体験の中で「私があなたに対して感じかこと」を互いに表明し合っていれば、人間関係はより親密になり、高い一体感を持つようになります。現在の組織文化・慣行に問題があり、それを変えていく必要があるなら、やはり新しい体験を集団やチームとして共有する時間をつくり、そこに新しい意味を見出していくというプロセスは有効なのです。
- 予期はリアルである
人々の行動を方向付けることは、組織変革においてとても重要な課題となります。方向付けるものをビジョンというのか予期というのかは別にして、将来は〇〇になるということに対して人々が信じることができれば、それは強力な行動の推進力となります。将来の意味づけ、つまり未だ起こっていないが、しかしそれはリアルな未来であるという人々の認識が形成できれば、変革の動きはとてもポジティブなものになるでしょう。したがって、リーダーや管理者は、未来に対する物語をつくり上げる際に注意深くなるべきです。こういった意味でAppleのスティーブ・ジョブズは未来の物語をつくることに長けていた人でしょう。ジョブズの未だ起きていないがしかしそれは起きることになると思わせる物語は、現実歪曲空間と呼ばれれます。現実歪曲空間(reality distortion field:略してRDF)は、1981年にApple Computerのバド・トリブルが、 同社の共同創設者スティーブ・ジョブズのカリスマ性およびMacintoshプロジェクトに従事する開発者への影響を言い表すために考案した造語です。RDFはジョブズの魅力、カリスマ性、虚勢、誇張、マーケティング、宥和政策、持続性をもって、ジョブズ自身と他人に、ほとんどどんな考えでも吹き込む能力であるといわれます。RDFにより、実現困難性についての規模感や距離感を歪ませ、今手元にある作業が容易に実行可能な気になると言われています。一方で、RDFは非現実的と非難されてきましたが、ジョブズに近い人々によると、不可能と見えたことが実現できたことで、実は最初から実現可能だったのだという感覚が作りだされた具体例が幾つもあるといいます。同様に、ジョブズが周りの人々に蒔いた楽天主義は、後の同僚やファンたちの忠誠心の元となっています。私的に言えば、ジョブズは集団センスメーキング創造の天才といえます。センスメーキング in オーガニゼーションズが書かれた時期は、まだiPhoneは発売されていませんが、これこそが「予期はリアルである」の最強事例であるといえます。「予期はリアルである」とは「予言の自己成就である」ともいえるのです。ただし、人々にもっともらしく(正確にではない)信じさせるには、それなりにボキャブラリー活用に長けていなくてはなりませんけどね。
さて、ここまでセンスメーキング概念を組織変革・ODにおいてどのように活用していけば良いのかについて紹介してきました。変革実践者としてのリーダーや管理者がセンスメーキングに取り組むためのコツは、さまざまな出来事やアイデアを書き出すという「記述に没頭する」ことから始め、次にそこから浮かび上がってきた連想を逃がさないために、直ちに書き留めたり、観察したり、内省したりすることです。連想がいかなるものであれ、それはセンスメーキングを習得するうえで適切なたたき台になります。そして実行し、結果に対して意味づけていくということの繰り返しから、組織の新しい現実が創造されていくのです。やはり書き出すという習慣はとても大切なのですね。そしてそこからネガティブな状況よりも、ポジティブな状況を見つけ出しそれをもって現状を変革していく努力・行動(イナクトメント)をし続けるのです。そしてそれが集団の力・新しいセンスメーキングになった時、現実はポジティブに変化しているでしょう。センスメーキング in オーガニゼーションズから学ぶODは今回で終了します。センスメーキングという概念理解にお付き合いいただきありがとうございました。
参考文献:センスメーキング in オーガニゼーションズ
この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です