センスメーキングとOD⑬~センスメーキングと組織変革7. 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-296~
前回のODメディアから、センスメーキング概念を組織変革・ODにおいてどのように活用していけば良いのかについて紹介しています。今回はその7つの示唆の4番目からです。
- 会議は意味を生み出す
ワイクは、「もっと頻繁に会議を開く必要がある」と提言していますが、これは「会議をもっとうまくやれ」というように理解した方が良いでしょう。組織で働いたことがある方なら誰しも感じたことがあるように、会議を増やすだけでは何の解決にもなりません。みんなが感じていることは「より良い会議」を実施したいのです。
会議は意味を生み出す、というワイクの主張を理解するために、まず「曖昧性」と「不確実性」ということを理解しておくことが役に立ちます。調べてみると、曖昧と不確実には以下のような意味があるとしています。
「曖昧」は、「態度や物事がハッキリしないこと。その様子」。「不確実」は、「確かでない様子。あやふや。」という意味があります。「曖昧」も「不確実」も物事がハッキリしない様子となりますが、同じようで違うのですね。例文には以下のような例文があります。
曖昧は、例えば、遅く家に帰ってきた夫に、なぜ遅くなったか理由を尋ねたときに、ハッキリとした返事がなかった場合「遅く帰ってきた夫が、曖昧な理由を話した(要するに、話をごまかした)」などということができます。話せないような悪さをしていたんですかね。また、会社で大きなミスをした人が、自分の責任ではないと自己弁護をはじめて、責任をあやふやにさせる場面があった時、「必死に自己弁護し、責任を曖昧にする」などということができます。
一方で不確実は、例えば、大企業の正社員として働いている人とは違い、フリーランスで働いている人は、いつどのような状況になるのか確かではありません。このような様子を、「フリーランスは不確かな人生を送っている」などということができます。また、伝染病の対策について噂が飛び交い、SNS上には、正確とは言えない情報が飛び交うかもしれません。このような様子を、「ネット上に不確実な情報が飛び交っている」などと表現できます。
こうやってみると、不確実は多くの情報を収集し、あるいは専門家が確かな目で見て解決できるが、いまは判断できる情報量が少なく判断できないし、この先何が起きるかもはっきりしていないような場合に、その状況を表す言葉として使用されます。曖昧は、ごまかす、別なことを言い出す、ものごとをはっきりさせないような場合に使い、それは情報量が増えたとしても解決されるものではないといえます。ここで注意すべきは、不確実性を解決するアプローチは、曖昧性を解決するアプローチにはならないということです。ワイクは次のように言います。「人々は多量の情報を生み出せる技術に莫大な投資をしている。そして、組織の問題をことさら無知の問題としてラベル付けをしている」。「人々は、実は曖昧性や多義性の問題に直面していることを認めたがらない」。要するに、不確実性の問題であれば、無知を取り除けばそれは解決できるのであり、情報システム、財務・会計、法務、生産などの専門家に出番があり、自分たちが状況をコントロールできるのです。ですから、そのような状況を創り出していさいすれば「私は無能である」というネガティブな感情を持たなくて済むのです。ところが曖昧性はこれとは異なります。立場が異なれば、見方が異なるし、解決策も異なるのです。例えば、結婚している夫婦のどちらかが別な人を好きになる。一方から見れば、それは真実の愛に目覚めたということかもしれませんが、一方から見ればそれは裏切りであり安定を壊すものです。世界中で起きる様々な紛争も「不確実」というよりは「曖昧」であることが多いのかもしれません。このような事柄に対しては、複数の解釈を許す議論の場を数多くつくっていくことが必要なのです。しかしながら曖昧性に取り組む会議は混乱しやすいものです。しかしこの混乱から逃げては「common-ground:意味共有された場」が生まれません。独裁的なリーダーシップ、服従を是とする規範、無能であるという不安の回避などの心理によって、私たちは「すっきりしたと納得させる」代わりに、「新しい機会を得る場、未来を創造する場」を放棄しているのです。組織マネジメントでいえば、曖昧性が集中しやすい上層部(トップマネジメントグループ)でこそ、曖昧性に対処する会議の仕方を学ぶべきなのです。ワイク的に言えば、「会議はセンスメーカー」なのです。OD的に言えば、対話による意味共有の場づくりが必要なのです。
- 動詞を使え
動詞を使え、ということを理解するには「組織」というものを私たちがどのように理解しているか、に立ち戻って考える必要があります。極端な言い方をすれば、組織は安定した構造であるのか、それとも日々変化していく人々の動きの集合体であるのか、などというとらえ方です。センスメーキング in オーガニゼーションズでワイクが主張していることは、明らかに後者が前提となります。組織について、前者のような見方をする人は「組織を何とかしなければ」という状況におかれると、制度や構造的変革を志向しがちです。制度や構造的変革を否定するわけではありませんが、しかしこれだけでは問題を一時的に切り取るという対処療法になり、同じような問題が繰り返し起きてきます。ワイクは、問題とはプロセスの一瞬一瞬の中断にすぎないといいます。ここでいうプロセスとは、人々の動きの連鎖、ルーティーン、パターンなどの事です。そして、中断が問題解決という名の下によって修復されると、プロセスはまた展開し続け、中断の可能性が再び顔を出してくるのです。ですから、異なるプロセスを生み出すには、今のプロセスを変えていく必要があるのです。それは、これまでのものの見方や考え方を問い直し、新しい意味づけをしていくために、新しい行動を選択していくことが求められるのです。すなわち動詞を変えるのです。それには「問の仕方」を工夫することが役に立ちます。例えば、目指す姿と現状のギャップを解消するネクストアクションを明確にする場合、以下のような問いをしてみるのはどうでしょうか。
- 課題解決に向けて、足りていないアクションは何でしょうか?
- 最も現実的な選択肢はどれでしょうか?
- あと10%課題解決に近づけるとしたら、何が必要ですか?
- それを行ったら、どんな結果が得られると思いますか?
- どんな方法だったら継続できそうですか?
- それらをどの順番で実践しますか?
- レビューはどのように行いますか?
動詞を使う利点は、私たちが出現する新しい環境に対してどのように向き合っていけばよいかという思考を再構築することに役立ちます。動詞は、コミットメントとしてふさわしい行為を示唆し、それが適切な行為か否かについての洞察を与えます。つまり、新しいセンスメーキングを生み出す原動力になるのです。(続く)
参考文献:センスメーキング in オーガニゼーションズ
この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。