• センスメーキングとOD⑫~センスメーキングと組織変革6. 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-295~

センスメーキングとOD⑫~センスメーキングと組織変革6. 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-295~

センスメーキングの研究ではなく、センスメーキング概念を組織変革・ODにおいてどのように活用していけば良いのか、これが実践家の最もたる興味関心事です。センスメーキング的に言えば、ODは、いままで無意識にやってきたことを意識化し、人々の活動を新しく構成しなおす活動であると言えます。平易に言えば、いままで××と思ってきたけど、どうもそうではないらしい。これからは、~~と考えていかなくてはならない、そしてそれを実現させるには、〇〇というように行動していく必要がある。と意思決定し、その実践を続けていくことです。そうして状況が好転してくれば、「よしこれで良かった今後もこれを続けていこう」とする思考と行動の連続的プロセスであるともいえます。このようなプロセスに対して、センスメーキングの視点は、どのような示唆を与えてくれるのでしょうか。センスメーキングと組織変革の最後は、ワイクが言うところのリーダーやマネジャーに求められる7つの示唆です。

 

  1. 行ったことを語れ

管理者は「言ったことは行え」と常々言い聞かされます。あるいは、研修などで「行動宣言」を最後にして、その実践をチェックするというのはごく普通になされていることです。ワイクは、この当たり前について以下のように言います。

「それについて反論する気はないが、ただしそれは、人がたくさんの事を語り、語りは騙り(かたり)であると割り切れる名人ならばの話である」。これは、身もふたもない言い方ですが、要するにやったこともないことを語っても、それは保証の限りではないということです。言ったことを行うように強いるなら、それはアカウンタビリティを高めるが、リスクテーキングとイノベーションを減じるだろうとも言います。これは言霊信仰がある日本では多くの反論があるかもしれません。

ワイクが言う大切にすべきことは「人は語るに値するものを見つけるために行為する」というプロセスです。この考え方で人生を切り開いている人たちが起業家とかイノベーターとか変革者といわれるのでしょう。語ったことを行えでは、新しく発見するという行いは制限されてしまいます。ODも、まずはやってみるというスタンスが大切です。アクションリサーチもこのスタンスでいきたいですね。それこそが機会を開発していく大切な姿勢です。複雑系ODとか、マネジメント3.0とか、アジャイル〇〇といわれる活動はすべてこの範疇に入ります。やっちゃいかんとは言いませんが、日本の多くの組織で行われている目標管理制度はせいぜい分かっていることを一生懸命やる方法としか言えませんね。

 

  1. リーダー・管理者は作家である

ワイクは、管理者は作家である、というタイトルをつけていますが、文章を読むとむしろ、管理者(リーダー)は作家たれ、といった方が良いでしょう。行ったことを語る人でも、その語りが面白くなければ聴いてる人に興味関心をわき起こすことにはならないのです。私たちは見たいものを見ます。実際に見ていない場合は、語る言葉がそれをイメージさせます。センスメーキング in オーガニゼーションの冒頭で紹介した「不適切な手当て」という言葉では「幼児虐待症候群」ほどのインパクトはなかったでしょう。幼児虐待症候群という言葉を使ったからこそ、人々はそれをおぞましいものとイメージし、それを無くすべく行動に移したのです。リーダーにとって言葉は大事です。ギリシャやローマの時代から修辞学がリーダー教育の必須科目であったことが理解できます。つまり、語彙の豊富さが大切なのです。最近の日本の政治リーダーには、これが不足している人が多いようですね。とは言え、作家の素養があるからリーダーとして、組織運営者として、あるいは組織変革者として優秀であるかといえば、それは違います。それは日大大麻事件の時の理事長を見れば明らかです。「管理者(リーダー)は作家である」は、望ましい条件であっても、リーダー、変革実践者としては十分条件ではありません。

 

  1. リーダー・管理者は歴史家である

管理者は歴史家である(べきである)とは、つまりは意思決定についてどのように考えるべきかということを示唆しています。ワイクは、意思決定においては2つの学習があるといいます。一つは、決定を下すことから無数の試行錯誤に関わり、その過ちから学習し最後に一つの結果に至るプロセス。もう一つは、結果から始め、そこに至るストーリーをまとめることで学習したことを要約するという、いわば歴史を再構築するプロセスです。歴史(を語る、研究する)は、現実にそれが生きられた段階よりも、正しいかどうかは別にして、焦点が鮮明で、洞察的です。歴史を語ることは、これによって人は将来的に能率的で効果的な行動を選択できると考えます。このことによって、人は自分自身の行いに自信を与え、積極的に環境に関わることができます。しかし、いい加減な歴史分析は人に間違った思い込みを与え、当然ながら自分に都合の良い意思決定をしてしまいます。ですから、意思決定は選択的行為というよりは解釈的行為といえます。例えば、東日本大震災における津波の予測についての東電のトップマネジメントの理解などはその最もたるものでしょう。すでに検証されているように、当時の東電トップが自分たちに都合の良い解釈をしなければ、福島第一原子力発電所の電源喪失という結果は起こらなかったでしょう。優れた意思決定者であるためには、良い記憶を持つだけでなく、過去の事象についても優れた洞察眼を持つことが求められます。リーダー・管理者は歴史家であるべきであるというのは、それが意思決定を大きく左右するからです。(続く)

参考文献:センスメーキング in オーガニゼーションズ

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。