• センスメーキングとOD⑩~センスメーキングと組織変革4. 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-293~

センスメーキングとOD⑩~センスメーキングと組織変革4. 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-293~

ODメディアは前回から、ボキャブラリーという6つの視点から組織のセンスメーキングを理解する、を紹介しています。

  • イデオロギー:社会のボキャブラリー
  • 第三次コントロール:組織のボキャブラリー
  • パラダイム:職業のボキャブラリー
  • 行為の理論:対処のボキャブラリー
  • 伝統:先人のボキャブラリー
  • 物語:連結と経験のボキャブラリー

今回は第三次コントロールからです。

 

パラダイム (paradigm) は、科学史家・科学哲学者のトーマス・クーンによって提唱された、科学史及び科学哲学上の概念です。クーン自身次のように述べています。

「ある一時期におけるある分野の歴史を細かく調べると、いろんな理論が概念や観測や装置に応用される際に、標準らしき一連の説明の仕方が繰り返されていることに気づく。これらがその専門家のパラダイムであって、教科書や講義や実験指導の際に現れてくるものである。それらを学びに実地に適用することによって、その集団のメンバーは仕事に習熟していく」。そもそもは自然科学の中に限定された概念であり、社会科学の概念ではありません。しかし、あまりに便利な概念だったのでしょう、社会科学の中でも使われるようになり、その職業あるいは集団における「内的に一貫した一群の単純化のヒューリスティクス(直観的判断):固定化したものの見方や考え方」という意味として使われています。

センスメーキング in オーガニゼーションズの中ではBrown(1978)を引用し、次のように説明しています。

「パラダイムという言葉でわれわれは、どういった類のものが世界を構成しているかとか、それらはどのように作用するか、それらはどのように結びついているか、そしてそれらはどのようにして知られるようになるのか、といったことに関する、通常暗黙的な仮定の集合を指している。実践においては、そのようなパラダイムは、コントロールの手段として機能するだけでなく、反対者が自らの知覚と行為を組織化する際に利用する資源として機能する」

パラダイムという概念は、組織におけるセンスメーキングの2つの特性をとらえています。一つは、センスメーキングにはコンフリクトが伴うこと、もう一つはセンスメーキングが帰納の源になることです。センスメーキングつまりパラダイムにはコンフリクトが伴うということは、特定の領域においてどの程度合意形成がなされているのかということです。科学の領域において合意形成の程度が高い順に並べると、「物理学、化学、生物学、経済学、心理学、社会学、政治学」の順になります。なるほど、と納得させられます。例えば、ロシア・ウクライナ問題などは政治学的には如何様にも見ることができます。要するに意見が分けれるということです。帰納の源とはちょっと分かりづらいですが、パラダイムは一群の人工物において伝えられるものであるといいます。例えば、その時代の代表的な建築物、美術品などは社会的な影響力を色濃く反映します。

私たちの実務的には、センスメーキングとパラダイムは同じ文脈の上に成り立っていると考えて良いでしょう。パラダイムは職業のボキャブラリーと紹介があるように、その職業に従事している人には、その職業の中で「当たり前」と考えるものの見方や考え方があり、それを共有している人にはとても話が通じやすいということです。逆に言えば、その職業ではない人から見ると「不思議だな、分からないな」ということがあるのです。天動説(中世までの宗教界)と地動説(科学者の見方)などは、その最たるものでしょうね。職業のボキャブラリーとしてのパラダイムの最後の説明で以下のような説明がなされています。私としては、この説明はとても面白いものに感じました。以下紹介します。

「組織内のセンスメーキングを担っている人は、より高次のパラダイムを持っているかのようなエコノミストのようにではなく、発展度の低いパラダイムしか持たない政治学者のように振る舞う。しかし、パラダイムの理論的発展が高まれば高まるほど、発展度の低いパラダイムにいる人の行為を説明する能力は低くなる(つまり、一般化できない)」。なるほど、科学者や評論家は経営者や政治家の行動を一般化して説明できないということですね。

さて4番目の行為の理論:対処のボキャブラリーに移りましょう。センスメーキングinオーガニゼーションズでは、行為の理論は「組織にとってのもので、それは個人にとっての認知構造に相当する。それは環境からの信号をフィルタリングし、解釈し、刺激を反応に結び付ける。それは刺激の同定と反応の組み立てを管理するメタレベル・システムである」と定義づけています。これは要するに、刺激-反応(S-R)パラダイムに基づくもということです。私たちは、自らが遭遇する状況に反応するたびに知識をつくり上げます。それは例えば、駐車場で高齢者のハンドル操作がおぼつかないような危ない運転を見ると「やっぱり高齢者は運動機能が低下するんだな」というようなことから、上司の言動から刺激を受けて「あの上司は~~の人だ」という理解をするなど、日常茶飯事的に起こります。このようなちょっとした「刺激-反応」の繰り返しから、その人および集団のパラダイムが形成されていきます。組織レベルでは、刺激-反応は、環境に対して攻撃的になる場合もあるし、防衛的になる場合もあります。このような因果関係に関する認知は、企業のさまざまな意思決定と行動に反映されます。ODメディアでも紹介しているバーゲルマンの「共進化ロックイン」なども、この行為の理論:対処のボキャブラリーの現れです。

(注)共進化ロックインとは、市場の成長(重要顧客の要望)と企業の戦略(顧客の要望に応える)が合致してともに同じ方向に進んだ(共進化した)結果、そのプロセスの外にある新規事業が社内で淘汰されてしまう(認知されない)状態を指す。

 

アージリスは、現実の行為における重要な問題(行動理論)は、その人が信奉している理論(信奉理論)とは別物であるといっています。だから、ダブルループ学習が必要といわれるのですね。このようなことは、組織における日常のコミュニケーションでどのような影響を与えるのでしょうか。つまり、話し手と聞き手の間には、本当に理解し合える状況が生まれているかを、私たちは注意深く観察する必要があります。話し手が新しい価値に基づく話をしても、聴き手が従来の行動理論を根強く持っていれば、それは自動的に行動理論の中で情報処理されてしまうのです。つまり、行動は変わらないということです。(続く)

参考文献:センスメーキング in オーガニゼーションズ

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。