センスメーキングとOD⑨~センスメーキングと組織変革3. 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-292~
ODメディアは前回から、ボキャブラリーという6つの視点から組織のセンスメーキングを理解する、を紹介しています。
- イデオロギー:社会のボキャブラリー
- 第三次コントロール:組織のボキャブラリー
- パラダイム:職業のボキャブラリー
- 行為の理論:対処のボキャブラリー
- 伝統:先人のボキャブラリー
- 物語:連結と経験のボキャブラリー
今回は第三次コントロールです。第三次コントロール(組織のボキャブラリー)についてのPerrow(1986)の考察は、なかなか面白いものです。彼によれば、組織は三種類のコントロール形態で管理を行っているといいます。
第一に、直接的な監督によるコントロールです。要するに、人(上司)が対面で他の人をコントロールするというものです。
第二に、プログラムやルーティンによるコントロールです。これは、組織における各種の規定や規則による制度的なコントロールというものです。
第三に自明視されている仮定や定義からなるコントロールです。これは、組織のみんながそう思っている「当たり前」であり、E.シャインの概念を借りれば、組織文化の基盤となっている深層の仮定です。組織メンバーにしみついている暗黙のルールですね。
暗黙のルールである仮定や定義からなるコントロールは、何も会社や特定組織の中だけに影響を受けるのではなく、その社会・国が持っている暗黙のルールからの影響を受けます。センスメーキング in オーガニゼーションズでは、アメリカの国内企業は、その文化的特徴として「競争力の獲得、個人主義、物質主義、自文化中心主義」という前提を持っており、それがグローバル化の阻害要因となっているという例が示されています。そして、このような文化的前提による意思決定について、他に有効なイデオロギーを探そうとすると、人々は言い訳がましくなり、ますます陰気で被害妄想的な説明を求めるようになるといいます。すなわち、そうした説明は“われわれ”と“他者”との間に極端な自文化中心主義的な境界線を生み出し、自己防衛をするためのセンスメーキングに都合のいい内容を探すことになります。このようなプロセスは、アージリスが言うところのダブルループ・ラーニングを超えて、社会の前提という領域まで踏み込むトリプルループ・ラーニングをしなければならず、結論から言えばとても困難な作業になります。なるほど、では日本の組織ではどうでしょうか。戦後に形成された日本企業の特徴である「終身雇用」「年功序列」「企業内労働組合」は1980年代までは、先進諸国に追いつけというビジネス環境にマッチした組織運営形態であったと言えます。これは、日本の村社会的体質ともマッチしており、高度成長期の中で育ってきた戦後のリーダーや経営者はその恩恵をたっぷりと受けてきたといってもいいでしょう。
意思決定には、その意思決定の前提となる仮説や命題があります。そのことを決定前提といいます。前提には「事実内容」と「価値内容」があります(ハーバート・サイモン 、1957)。事実内容による意思決定とは、データとか確実な情報を基にした意思決定です。しかし、ものごとには真実か虚偽かがはっきりせず、そのようなことを前提に意思決定するしかないことが多いものです。このような場合、私たちはイデオロギーによる意思決定、つまり価値内容を基盤とした意思決定をしてしまいます。
組織デザイン的には、仮定によるコントロールはどのような階層で最も強く影響するかといえば、それはトップマネジメント層です。下部組織は、通常、直接的な監督によるコントロールおよび各種の規定や規則による制度的なコントロールで運営されます。したがって、非ルーティンな事柄に対する意思決定は、トップマネジメント層の守備範囲になるのです。仮定によるコントロールは、組織内で使われるボキャブラリー(第三者にはその意味が不明な場合もある)、不確実性を吸収していくプロセス(例えば、現場からトップに上がっていく情報のプロセスの中で、どのように情報がロンダリングされるか)、コミュニケーション・チャネルの構造(誰に話して、どのように処理され、次に誰とどのように共有されるか)、ものごとを進める手続き、昇進基準(組織の価値が反映される)などといった“間接的な組織メカニズム”の影響を受けて、目立たないものになっています。つまり、トップマネジメント間で議論されない、当たり前の価値判断基準となるのです。したがって、いったん出来上がった仮定によるコントロールは、なかなか変革がしづらいものとなります。日本企業の経営リーダーシップに話を戻せば、戦後の高度成長期に育ち1990年代に経営層に組み込まれた人たちは、やはり「終身雇用」「年功序列」「企業内労働組合」のイデオロギーを前提にした経営をしてしまったのですね。では、1990年代後半から2000年代前半のリーダーはどうなのかといえば、その呪縛から逃れるべく前提をぶっ壊そうとしたのです。しかし、例えば人事制度一つをとってみても「パートナーシップ型」の文化が根底にある中で「ジョブ型」を前提にした業績管理制度を導入してもうまくいかないのです。「ジョブ型」を前提にした業績管理制度は、アメリカ企業の暗黙の前提である「競争力の獲得、個人主義、物質主義、自文化中心主義」の中で成立していたものです。異なる前提で運用されてきた制度を導入しようとしても混乱を招くだけです。そして、部分の手直しに終始し、組織運営が迷走してしまうのです。そしてこのような迷走は、複雑に構造化された歴史がある大企業に強く表れてしまいます。2000年以降に新しく立ち上げた若手経営者の組織は、古いイデオロギーを持っていません。そしてそのような組織に雇用される人材は、Y世代やZ世代といわれる人たちであり高度成長期を知らない人たちです。ですから「終身雇用」「年功序列」「企業内労働組合」を前提としたセンスメーキングはありません。このような集団では、新しい制度が機能するし、経営者は古い経営者とは異なるセンスメーキングの中で経営をしているのです。古い歴史がある複雑な組織が、そのような経営を単に真似しようとしてうまくいかないのは当然なのです。センスメーキングの第三次コントロール:組織のボキャブラリーは、組織運営に以上のような影響を与えるのです。(続く)
参考文献:センスメーキング in オーガニゼーションズ
この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。