センスメーキングとOD⑧~センスメーキングと組織変革2. 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-291~
対話型ODを組織変革のツールとして活用しようとする場合、つまり、集団は何を語り、それは何に依拠しているかを探っていくことが、人々の思考と行動変容に欠かせないと信じる変革推進者にとって、センスメーキング概念の理解はとても重要です。前回のODメディアで紹介した「カモノハシの命名騒動」の話のように、人はフレームワークを持っているからこそ自らの生や世界の中で生じた事柄をその中におき、知覚し、確認し、ラベル付けする(してしまう)ことができるのです。逆に言えば、フレームワークを持っていなければ私たちの認知は混乱し、知覚、確認、ラベル付けは困難を極めます。ここでいうフレームワークと手掛かりはボキャブラリーとして考えることができます。すなわち、語るボキャブラリー(言葉)がないということは「わからない」ということになります。ということは、起こっていることを理解するには、手掛かりとフレームワークが必要ということになります。センスメーキングの実質は、このフレームワーク、手掛かり、とその連結の3つの要素が必要となります。センスメーキングin オーガニゼーションズでは「手掛かり+関係+フレームワーク」が意味単位となるとしています。つまり、ある出来事が観察され、その出来事は別の出来事と関連付けられて、初めて私たちが持っているフレームワークの中で意味が生成していくということです。組織の中で語られることは、「過去のある瞬間+連結+現在のある瞬間」という組み合わせによって、現在の状況に対する有意味な定義を創り出しているのです。これは何も難しい説明をしなくても、私たちは平気で、「彼(彼女)は以前、〇〇な態度が多かったよね(過去の手掛かり)」、で「今も〇〇なことをしている(現在の手掛かり)」、「〇〇な人は~~~だよね(フレームワーク)」、だから「彼(彼女)は、~~~だよね(連結)」というように彼(彼女)に対してラベル貼りしてしまいます。組織のセンスメーキングに関する多様なボキャブラリーに共通しているのは、「過去の瞬間、現在の瞬間、そして連結」のいずれかを記述しているということです。では6つの視点のボキャブラリーから、組織のセンスメーキングを理解していことにしましょう。
- イデオロギー:社会のボキャブラリー
- 第三次コントロール:組織のボキャブラリー
- パラダイム:職業のボキャブラリー
- 行為の理論:対処のボキャブラリー
- 伝統:先人のボキャブラリー
- 物語:連結と経験のボキャブラリー
- イデオロギー:社会のボキャブラリー
イデオロギーとは「ある人たちをまとめ上げ、彼らが自分たちの世界を意味づける上で助けとなるような、共有され、比較的一貫して関連し合う、情動に満ちた確信や価値観、規範の集合」(Trice and Beyer 1993)と定義されています。したがって、イデオロギーは、因果関係に関する確信、特定の結果に対する選好、そして適切な行動についての予期を結びつけます。このようなイデオロギーの定義は、センスメーキングがフィルタリングの機能を果たすものとして理解することができます。例えば、経営における「借入れ」という行為について私たちはどのような見方をしているでしょうか。借入れはリスクが高い、事業投資は自己資金で行うべきであるという人は、金融市場の動向や金利にはあまり注意を払わないでしょう。このようにみてみると、イデオロギーは物事を単純化してみてしまうということにつながります。Trice and Beyerのイデオロギーの源泉に関する考え方は、センスメーキングを組織の制度理論に結び付ける道をつくることにつながりました。Meyer(1982)は「うまく調和し合う価値観を包含している強靭なイデオロギーは、自己統制的かつ自発的な協調を引き出すので、同じ目標を達成するように設計された公式的構造の代わりになる」としています。なるほどですね、日本でよく言われる「~~~の伝統ですね」とかいうのは、このことですね。しかし、このようなイデオロギー、すなわち伝統も、新しいビジョンやイデオロギーで成功する組織が出現すると見直しを余儀なくされます。例えば、語りつくされていますが大学駅伝における青山大学の出現、2023年夏の甲子園における慶応義塾高校の優勝などは、古いイデオロギーの見直しにつながりました。つまり、新しいセンスメーキングの出現ですね。このようにみていくと、組織変革の一つのあり方は、新しいビジョンとそれに基づくイデオロギーを有する組織、あるいは組織内チームが何らかの目覚ましい成功を収めるということが非常に有効であるということが分かります。最近のODや組織変革の文脈で使われる言葉では「ポジティブな逸脱」ということになります。ポジティブな逸脱は、そこにイデオロギーがあったかどうかは別にして、辺境における新しい試みがうまくいき、それを組織が学習していく過程で新しいセンスメーキングが生まれるプロセスであるととらえることができます。
次回のODメディアは、第三次コントロール:組織のボキャブラリーからです。(続く)
参考文献:センスメーキング in オーガニゼーションズ
この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。