• センスメーキングとOD③~センスメーキングとは3. 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-286~

センスメーキングとOD③~センスメーキングとは3. 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-286~

センスメーキングは、組織研究において重要な意味を持つ概念であり、キーワードですが、もう少しセンスメーキングとは何を指し示すのかについて理解を進めましょう。
ワイクは、センスメーキング(sensemaking)と解釈(interpretation)を同じようにとらえる向きもあるが、これは異なるものだといいます。解釈は、ある言葉が他の言葉で説明される一種の表現であるといいます。それに対してセンスメーキングは、解釈だけでなく創作にも、発見だけでなく創造にも関わります。例えば、ワイクの「センスメーキング inオーガニゼーションズ」を読んで、ODメディアにできるだけ分かりやすく意味が伝わるように掲載している作業は「解釈」ですね。そこから踏み出して、ODメディアのそもそもの目的である「ODの実践」をどのようにすべきであるかということに言及していけば、それはセンスメーキングしたと言えるのでしょう。センスメーキング inオーガニゼーションズに戻りましょう。
私たちを取り巻く状況は、時間軸に沿って明確になっていくということがありますが、この逆もあります。つまり、結果がそれ以前の状況や行為の定義をしていくということがあります。例えば怪我をしたとき、なぜその時適切な処置をとらなかったのかという問いに対して、あれこれ意味づけ(言い訳)をするというような行為です。これこそがセンスメーキングの重要な特性であるといいます。ちょっとわかりづらいかもしれませんが、認知的不協和理論をご存じの方は、「なるほど」と納得されるでしょう。
認知的不協和理論(フェスティンガー)とは、否定的な結果をもたらす決定の意味を修正しようとする「決定後の営み」に焦点を置いた理論です。イソップ物語で、葡萄をとれなかったキツネが「あの葡萄は酸っぱい」と意味づけ、自分の行為を納得させるという逸話を使って説明されることが多いですね。自分の行為を正当化させる思考でもあります。私たちは、AかBかの選択を迫られ、どちらかを選択した場合、選択されない方の誘引(メリット)をあきらめ、選択された方の否定的な一面(デメリット)を引き受けることになります。しかし、選択した後もデメリットに目が行き不安が心を支配することがあります。つまり、心理的に不協和を感じるのですが、この不協和を解消するには選択した方の肯定的な側面と選択しなかった方の否定的側面を引き延ばす(拡大解釈)ことで、私自身を納得させるのです。このようなことは、様々な場面で行われます。例えば、組織における意思決定もそうです。今、手元にある結果からスタートし、その結果を生み出すもっともらしい物語をつくり上げることによって、その結果を意味あるものにするのです。これは何もネガティブなことばかりではなく、つらい過去があっても今が幸せなら「あの時の経験が今をつくっている」と意味づけすることができます。もちろん、その逆もあります。この心理的作業をすることで、人は今の自分を肯定的にとらえることができます。しかし、現在が第三者から見ると、どうみてもネガティブな場合でも、その当事者は認知的不協和理論によって今いる環境を肯定的にとらえてしまうことがあります。そうすると、変化は起こりようがなく、ネガティブな現状と抑圧された心理状態が続くということになります。どこかの中古車買い取り販売会社もそのようになっていたのかもしれません。
さてワイクによれば、この認知的不協和理論は組織研究のかなりの部分にその名残をとどめているといいます。例えば以下のようなことです。
① ある決定に符合する認知要素の数を増やすことによって不協和を低減させる。これを正当化によるセンスメーキングといいます。この場合、無理やり符合する認知要素を集め、そうではない要素は無視するということをやっている場合があります。
② 正当化に導く決定後の行動を強調することによって認知的不協和を低減させる。これをイベントとしての選択といいます。過度な競争はだめだと思いながらも、営業でトップの成績を収めインセンティブも望ましいものであれば、この会社に入ってよかったのだと自分を納得させるような出来事を指します。
③ 決定後の結果を決定に至る歴史の再構築のために用いてその歴史を正当化する。これを回顧によるセンスメーキングという。ほとんどの勝者の歴史はこれですね。
④ ある人の認知の食い違いをきっかけとした行為に何か意味づけをする。例えば、組織のトップが、ある出来事について勝手な解釈をしてそれを正当化するようなこと。それが認知的不協和の出発点になる。これをセンスメーキングのきっかけとしての乖離という。
⑤ 社会的な支持や宗旨替えなどにより、もやもやした気持ちを解消することができたという不協和の低減。
⑥ 上記③、④、⑤がミックスされ行為が認知を形成するということがある。アメリカのトランプ元大統領の行為によって、人々が彼の言っていることが正しいと思うことなどがこれに該当する。

これら6つの論点はセンスメーキングを論ずるときに、すべて不可欠なものです。最近、組織研究の中で使われる「イナクトメント」というちょっと分かりづらい言葉がありますが、これはとりあえずやっていったらうまくいったので、それを後付けで意味づけするといったようなことです。こういった概念にも上記の6つの論点があるといわれます。今回の最後に、センスメーキングについての素晴らしい論述とワイクが言うものを紹介します。
「話す前に自分の伝えたいと思っている意味をきちんと整理しておくように」といわれた時、「私が言うことを私が知るまで、私が考えていることをどうして私が知ることができるっていうの」と応じた少女は詩人の才能がある(wallas 1926, P.106)。
とはいえ、詩人の才能があるといわれた少女の応答を、普通の会社でやってしまうと、「お前何考えている、自分勝手な奴だ」といわれるでしょうね。(続く)
参考文献:センスメーキング inオーガニゼーションズ
この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。