• [組織開発]教科書から学ぶ㉚~ODコンサルタントの役割 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-283~

[組織開発]教科書から学ぶ㉚~ODコンサルタントの役割 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-283~

[組織開発]教科書から学ぶODの実践、最終回はODコンサルタントの役割です。ODコンサルタントあるいはチェンジ・エージェントはいったいどのような役割を担うのでしょうか。そのことを考える前に、組織の変化は何がきっかけ(原因)になるのかから考えましょう。組織変革のニーズは、理想的な始まりは、組織のトップマネジメントが先々の環境変化を見通して、組織に危機が訪れる前に何らかの変化を導入することでしょう。そしてそれが、従業員にとっては「急激な変化」ではなく、毎日の仕事を少しずつ改善していった先に望ましい未来が実現することにつながれば尚良いわけです。そのような漸進的な変化のマネジメントもあれば、外的要因によって望まない変化を強いられることも多いものです。
下記の図は、変化のレベルを4つの象限からとらえるものですが、現実問題としてODコンサルタントは「改善レベル」では、ほとんどその出番はないでしょう。もちろん、新しいスキル習得という意味での人材開発という支援は象限1でもあるわけですが、この象限は、従来のビジネスモデルの大幅な変更はありません。したがって、組織文化の変革は求められるものではなく、そういった意味でODアプローチは必要とされないのです。あるのは、2から4です。さらに、再建的変革の場合、最初に求められるのは財務リストラがほとんどであり、ODコンサルタントの出番は財務リストラが一段落した後になるでしょう。
   図-1 変革のタイプ(D.ナドラー デルタコンサルティング)

 
具体的な変革ニーズは、市場の変化、新しい競争相手の出現、技術革新、政府の規制、原材料の不足、消費者運動、環境問題への対処などがありますが、OD実践家(以下、ODコンサルタント、チェンジ・エージェントを含む)の仕事と役割は、組織メンバーを援助して、このような外的要因にうまく対処できるようになることを援助するものです。OD実践家は変革を促進させるのであり、これを主導するわけではありません。ここで重要なジレンマが出てきます。すなわち、OD実践家は組織のリーダー(ボス)の下請け的仕事なのか、それとも組織のリーダーに対しても、組織の方向性やマネジメント価値観に影響を与える役割を担っていくのかということです。組織内のOD実践家であれ、組織外のODコンサルタントであれ、このようなジレンマには幾度も直面するでしょう。結論からいえば、OD実践家は、組織のかじ取りをするわけではないが、組織の方向性やマネジメント価値観に影響を与える役割を担っていくべきであるというのが私たちの見解です。具体的には、クライアントであるトップマネジメントや組織メンバーに対して、変革の方向性を明確につかんでもらったり、あるいは変革への道順を示す概念図/ストーリーを提供したりすることです。言い方を変えれば、OD実践家は、トップマネジメントが変革プロセスの人間的側面を効果的にマネジメントするのを助けると共に、従業員が目標にインボルブし変化していくことを助けます。OD実践家は、組織目標とその組織の個々人の欲求の双方を満たす方法をトップマネジメントや組織内の変革推進者と合意し、従来の価値観を変革していけるように援助します。こうした仕事はとてもユニークな活動であり役割ですが、なかでも重要な仕事は、クライアントがその組織独特の行動とその根底にある価値観の関係つまり組織文化を見極め、自覚し、クライアント自らそれを変革していく行動に踏み出してもらうことです。これは、アージリスが言うところの信奉理論と行動理論のギャップを明確にし、必要であればそれをクライアントに提示し、クライアントの自覚が足りなければクライアントと対決していくことを意味します。OD実践家の最大の強みであり、特徴はまさにここにあります。したがってOD実践家は、組織内のパワーの所在と政治的な構造を知覚し、これに適切に対処する必要があります。よくよく注意しなくてはならないのは、組織のパワー構造の渦に巻き込まれずに、大切にする価値観に重きを置くことです。価値観に対する焦点は、第一はトップマネジメントあるいはクライアント組織の権力集団の持つ価値観とOD実践家の価値観の類似度です。第二はクライアントが提唱する価値観と実際の行動との間にある矛盾、不一致についてです。内部のOD実践家/チェンジ・エージェントであれ、外部のOD実践家であれ、この問題はとても大きな対処すべき問題です。価値観が合わない場合、変革への支援そのものを断念せざるを得ない状態になります。つまり、OD実践家はその組織の意思決定者ではないのです。組織が目指す価値観とOD実践家の価値観が両立するものであれば、OD実践家の主な役割は、トップマネジメントチームや変革推進者を援助し、「1.彼らの個人的価値観を明確にし、それが組織の価値観とどれほど一致しているか、していないかを把握してもらい」「2.表明している価値観と自分の行動の合致度について考えてもらい、必要な行動変容に結び付け」「3.最終的には、これから重視する価値観を、組織の構造や報酬制度、統制システム、および人々の関係性のあり方などに明確に織り込んでいくようにしていく」ことです。
ここまで記載してすでに明確になっているように、OD実践家の重要な役割は、組織の中の価値観の明確化を促進させ、従来の価値観に基づいたさまざまな組織内の慣習や構造を改めることを援助することにあります。この役割は、OD実践家とクライアント組織の双方にとって有益であり、OD実践家としての存在理由(レゾンデートル)です。外部のOD実践家あるいは変革支援者にとっては、この存在理由を自覚するのであれば、クライアントと対決するという意味が理解できると思います。簡単なことではありませんが、しかし遣り甲斐がある仕事であり、役割であると言えるのではないでしょうか。
参考文献:[組織開発]教科書

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。