[組織開発]教科書から学ぶ㉙~プロセス・コンサルテーション 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-282~
今回のタイトル「プロセス・コンサルテーション」は、E.シャインが提唱するコンサルタントの姿勢を表す言葉として有名です。チームづくりにおいては、チームのプロセスを取り扱うという意味でも用いられます。W.バークは、チームづくりにおいて「コンテントとプロセス」という言葉(概念)を重視しています。コンテントとプロセスという概念は、集団を扱うどのような場合にも重要な概念になります。ここでは、コンテントとプロセスという言葉をグループ・ワークの文脈の中で明確にし、その後コンサルタントの役割としてのプロセス・コンサルタントについて言及していきます。
グループが的確にタスクを遂行するかは、3つの要因に左右されます(スタイナー1972)。それは、タスク上の要求事項、リソース、およびプロセスです。当然ですが、タスクから来る要求事項によって、リソースやプロセスが決まってきます。例えば、野球のチームとバスケットボールのチームでは、当然求められるリソースやプロセスは異なります。リソースには、個々のグループ・メンバーが持っているすべての関連知識、能力、スキルが含まれます。プロセスは、タスクに取り組む際にグループが踏む実際のステップからなります。それは、タスクの進め方、タスクに取り組む人々の対人関係、競争意識、欲求、理解度などによって影響されるすべての行為が含まれます。プロセスはタスクからの要求やリソースと異なり、タスクが始まる前に測定したり評価したりすることができません。プロセスとは、一つの行動に続き、一つの行動が起きるという行動の連続であり、一つひとつの行動は、過ぎ去った前の行動によってかなりの程度決定されるものです。この一連のすべての行動が、タスクの遂行に影響を与えるのです。要するに、タスクの要求事項に合わせて、理想的なリソースを揃えたとしても、プロセスが良くなければ期待する成果は得られないということになります。したがって、チームとして効果的に機能するには、チームリーダーやチームメンバーはプロセスに対しての理解を深め、協働して働くスキルを高めていく必要があるのです。
コンテント(what)とプロセス(How)はグループ活動の基本的な次元です。タスク上の要求事項やリソースはコンテントの側面になり、タスクを遂行しているチームに起こっていることがプロセスです。ODの実践やチームづくりは、タスクが正しく設定されているか、必要なリソースが揃っているかは、もちろん重要かことですが、その焦点は主としてプロセスにあたります。プロセスは、タスク・プロセスといわれるタスクの達成に直接関係する手続き上のプロセスと、メンテナンス・プロセスといわれるチームを維持していくプロセスに分かれます。
タスク・プロセスの主要な側面は以下の4つです。
① メンバーの組織化。つまり、チームメンバーの構成と役割である。
② リーダーシップ。ここでいうリーダーシップは、チームのタスクの達成のために、誰がどのようなリーダーシップをとることが適切であるかを決めることである。
③ 意思決定。意思決定は、様々な方法がある。
(ア) 最終決定はリーダーに一任
(イ) 少数による決定:多くの人の参画を求めるが、最終的には少人数で決定
(ウ) 多数決
(エ) コンセンサス
(オ) 満場一致(コンコーダンス):完全な一致
④ 問題解決。チームが問題解決の方法として、どのような方法を採用するかである。
メンテナンス・プロセスは、集団をチームとして束ね、メンバー間の凝集性を高めるようにするチーム内部の活動です。例えば、コミュニケーションの開放性、相互信頼、相互支持、参画の機会の提供、寛容性、緊張を取り除くなどが含まれます。メンテナンス・プロセスには、メンバーの対人関係の指向性が関係します。
チームづくりの4つの焦点である、目標設定、役割分担、手続きの明確化、メンバーの相互関係のどれに対しても、プロセス・コンサルテーションが関わってきます。チームづくりにおいて、タスク・プロセスに対する介入は事前の構造化が概ね可能です。ところが、メンテナンス・プロセスは、介入に対する事前の構造化はそれほどできず、チーム状態に関する事前調査によって、ある程度の仮説をもって臨むにしても、プロセスが都度変化する中で介入していく必要があります。そしてここでの大切なことは、第三者が第三者の目で介入計画を実施することよりは、メンバーが自分たちでプロセスを診断し解決するようなスキルを開発することを支援するということです。つまりE.シャインが言うところの「クライアントがそのクライアントの状況の中で起きるプロセス面の出来事を認知し、理解し、それに対して処置がとれるように援助するコンサルタント側の一連の活動」を実践するということです。そして、プロセスを扱う場合、理解しておくべき重要な理論があります。以下3つ理論を簡単に紹介しておきます。
A) チームが熟成していく3つの段階:Wシュッツ
これは、チームメンバーは、3つの懸念を解消しながら成長するというものです。人は誰しも「私はこのグループ・メンバーとうまくやれるのか」という懸念が解消されないとやるべき課題に集中できないといいます。この懸念が解消されると、次に現れるのが統制に対する懸念です。つまり、「このグループで主導権を持っているのは誰か」ということに対する懸念です。そして自分は「統制に関して、どのあたりにいるのか」という懸念もあります。最後が、メンバーとの親密性や愛着に関する懸念です。この段階では、メンバーはどの程度親密になりたいか、どの程度オープンに接してよいかに関心を持ちます。
B) 対人関係能力:Cアージリス
これは、グループは対人関係に対するどのような仮説で動いているのかを見るものです。土台にはマクレガーのX理論とY理論がありますが、アージリスの主張はチームづくりという文脈の中では、XからYへの移行ということになります。また、人は行動に対する信念と実際の行動にはギャップがあるとし、チームづくりの介入は信念と行動のギャップを減少させる行動面に焦点が当たります。
C) グループの無意識行動:W.ビオン
ビオン理論は集団の無意識層に焦点をあてた理論です。集団は常に、課題を意識的にうまくやろうとする「意識的に仕事をしていく側面:A」と、周囲との関係性を気にしてときに「幻想に怯えたり不安を感じたりして仕事をしている側面:B」があります。そしてこのような不安を解消するために、集団メンバーは以下の3つの行動を無意識にとってしまいます。「①.集団のリーダーに対する依存または反依存」「②.依存派と反依存派の分派行動」「③.結果として集団内における闘争または逃避」。リーダー自身もこの渦の中にいて、自分で自分の行動を統制できないことがほとんどです。したがって、問題解決を支援する第三者(ODコンサルタント)は、ビオンが言うところの集団無意識行動の3つが、チームとしての生産性にどのように影響しているかをリーダーに進言し、解決策を実行していくことが求められます。この処置は、重要人物の解雇などの処分もあり得ます。
プロセスのコンサルテーションは、なかなかに骨が折れることが多いのですね。
参考文献:[組織開発]教科書
この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。