[組織開発]教科書から学ぶ㉗~チームづくり 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-280~
ODメディアでは前回から引き続き、ODの社会的技法の10項目の中で、OD実践家になじみが深く、またもっとも多く実施されるチームづくりについて紹介します。
今回は、チームづくりの4つの主要目標の②と③および④のチームの規範や意思決定です。
- 目標あるいはその優先順位を設定する。
- 目標達成の作業を分析し、その遂行方法を明確にする。
- チームメンバーの役割と責任に従って担うべき課題・作業を明確にする。
- チームの規範や意思決定、コミュニケーション・プロセスを検討し、メンバー間の関係を明確にする。
チームの個々人において、「自分の役割が持つあいまいさ(役割定義が不十分)」「特定の役割において個人に期待されること」「特定の役割においてその個人が適切だと信じていること」における矛盾は、チームの中にかなりの混乱を引き起こします。以下、チームでなすべきことを明確にし、メンバーの役割と責任を再定義するための技法を紹介します。
【役割対立の状況を解消する:ハリソン、1972】
これは、チームの中のパワー、権限、影響力などの関係に介入するものです。方法は以下の通りです。
- チームのすべてのメンバーは、以下の3つの質問に答え、リストにする。
- 他のメンバーのために、より多く、あるいはもっとよくなすべきことは何か
- 他のメンバーのために、もっと少なくした方が良いこと、あるいはやめてしまうべきことは何か
- 他のメンバーのために、今まで通り維持すべきことは何か
- リストをメンバー全員で共有し、内容に関する変更は、メンバー同士で交渉し、最終的には文書による約束の形で承認する。
【RASI技法:ベックハード/ハリス、1977】
RASI技法は、チームで実施すべき課題・活動(activity)に対する責任者とその他のメンバーの関係を明確にする技法です。グリッドの網目を使い、タテに課題・活動(activity)、ヨコにチームメンバーの名前を記入し、網目にそれぞれの役割を明示していきます。RASIの意味は以下の通りです。
- R:responsibility その活動の責任者
- A-V:approval-vote 必要とされる承認または拒否する権利を持つ人
- S:support その活動に必要な支援とリソースの提供者
- I:informed その活動に関して情報を得ている必要がある人
このRASI技法は、新しいチームの立ち上がりでは特に有効ですが、現行チームの役割再定義にも活用できます。
【チームの規範や意思決定の解決】
チームの規範や意思決定の解決など、チームの課題達成に影響を与えるプロセスをタスク・プロセスといいます。タスク・プロセスにはリーダーシップの発揮の仕方も含まれますが、この改善にはどのような方法があるでしょうか。これは、ベックハードとハリスが経験したある事例を紹介することにします。
『アメリカのある大企業の副社長は、自分が出すメモに部門のマネジャーが適切な反応を示さないことがあるといって悩んでいました。この解決のために副社長はいくつかの選択ができました。それは、「a.部下をコミュニケーション訓練コースに送る」「b.自分自身がコミュニケーション訓練コースに参加する」「c.両方を実施する」「d.その問題に直接介入する」「e.我慢する」。結局、「d.その問題に直接介入する」を選択し、役員と人事担当者が外部コンサルタントに依頼し、副社長とマネジャー参画のもと問題解決セッションを実施することになった。ワークショップは、平日9:00から12時までの時間を使用することとした。ワークショップに先立ち、副社長は、マネジャーに送ったメモを事前に数枚選び、これをワークショップで参加者にスクリーンに映し見せる準備をしていた。当日、以下のような問いにマネジャーは答えることになった。
- あなたはこのメッセージが何を伝えていると思いますか
- このメッセージにどんな優先順位を与えますか
- 高い:即座に対処する
- 中間:割合早く対処する
- 低い:自分がやれるときに対処する
- このメッセージにどのような処置をとりますか
参加者全員が3つの問に答えを書いてもらった後、全員にその内容を読み上げてもらった。結果、マネジャーの回答にはかなりの違いがあることが分かった。副社長はこの後、メモを通して何を伝えたかったのか、どんな優先順位をつけてほしかったのか、そしてどのような処置をしてほしかったのか、を説明した。この結果、誤解が解消され、参加者全員にとって大きな学習がなされた。以降、副社長のメモの数は40%減少し、さらに1年後、コミュニケーション手続きを変更した結果、約2万ドル(当時)にも及ぶ経費の削減がなされた』
チームの規範や意思決定の解決のこの事例はとても参考になります。個人のコミュニケーションやリーダーシップ訓練をやっても解決しなかったでしょうね。
参考文献:[組織開発]教科書
この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。