[組織開発]教科書から学ぶ㉖~チームづくり 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-279~
今回のODメディアでは、ODの社会的技法の10項目の中で、OD実践家になじみが深く、またもっとも多く実施されるチームづくりについて紹介します。
組織は、多くのチームすなわちワークグループによって構成されています。トップ・マネジメント・チーム、販売チーム、マーケティングチーム、情報システムチームなど、つまり全くの個人作業による単位はないといってよいでしょう。そして、ワーク単位のメンバーがどの程度うまく協働するかは、かなりの部分、その組織の全体的な効果性を決定するといっても良いでしょう。例えば、トップ・マネジメント・チームの協働がうまくいっていなければ、組織は機能不全に陥ります。近年の組織活動は、多種多様な専門性を持った人たちがチームとなって、単に個々人の専門性を総合したものより大きな生産性を実現させることが競争優位の重要なカギになっています。このような状況の中で、どのようなOD介入が必要になってくるかは、チームメンバーの相互依存の度合い(以下、協働性の度合い、と表現)によって決まってきます。協働性の度合いが高いほどチームづくりの必要性が高まってきます。
通常、チームづくりには2階層から3階層のメンバーが一堂に会して実施されます。チームづくりには、以下の4つの主要目標があります。(R.ベックハード)
- 目標あるいはその優先順位を設定する。
- チームメンバーの役割と責任に従って担うべき課題・作業を明確にする。
- 目標達成の作業を分析し、その遂行方法を明確にする。
- チームの規範や意思決定、コミュニケーション・プロセスを検討し、メンバー間の関係を明確にする。
ベックハードによれば、チームづくりにおいては、これらの4つの目的の中で何が主要な目的になるかを明示しておかないと、チームづくりのエネルギーを無駄に使ってしまうとしています。要するに、チームメンバーにとってこの4つの目的の優先順位は異なるので、そのことを放置してのチームづくりはありえないということです。
またこの4つの順番は、チームづくりというOD介入とても重要です。要するに、メンバー間の関係性は、それ以外の3つについて正しく理解していないか、理解の仕方にズレがあることによって引き起こされることが圧倒的に多いからです。目標、役割と責任、チームの作業手続きや意思決定のプロセスを明確にすれば、チームメンバー間の軋轢は減少する可能性が高いといえます。いずれにしてもこの4つは相互に関係しており、例えば役割と責任を明確化することが、作業手続きやコミュニケーション・プロセス上の問題を解消することにつながることも多い。以下、バークが経験したコンサルテーションの事例に基づき、4つの目的それぞれに対する介入方法を見ていくことにします。
【目標の設定と優先順位】
バークは、ある大学の臨床医学部の部長の依頼によるチームづくりの事例を取り上げています。箇条書きにすると以下のような手順に従ってチームづくりの介入を実施しています。
- 対象部門のメンバー全員(15人)を面接し、チーム活動に対してどのような見方をしているのか情報収集を実施。結果、メンバーが部門全体としての方向性を持っていないと診断した。つまり、チームづくりの介入目標は「チームの目標を明確にすること」であると診断された。
- 依頼者の部長と内部コンサルタントの3人で、15名のメンバーを対象としたオフサイト・ミーティングのデザインを話し合う。結果として、夕方から1泊し、次の日を丸1日使うことを決定。オフサイト・ミーティングのデザインは、フィッシュボール・ディスカッションといわれる方法を採用している。以下の通りである。
- 15名のメンバーを5名1組の3グループに分ける。グループは、専門や性別が偏らないミックスグループである。
- 共通タスクは、部門の目標がどうであるべきと考えているかを明確にし、各グループの代表者2名で、全体で発表させる。
- 3つのグループは、目標を書き出し、大部屋に集合する。
- 各グループから2名の代表者が中央に座り、他のメンバーはその周囲に座る。中央には、1つ空制を用意し、周囲のメンバーは意見があれば、その空席に座って意見を言うことができる。
- 当日は、フィッシュボール・ディスカッションに従ってディスカッションが行われたが、代表者6名のタスクは、それぞれのグループが取りまとめた目標について話し合い、3グループのリストを部門全体のステートメントとして一つに取りまとめることである。
- 6名の代表者が3つのリストを一つにまとめた後、メンバー全員で優先順位をつける作業に着手した。
- このケースでは、リストは全部で14項目あり、まず個々人で優先順位を設定する。
- 次に、個々人が、実施段階までもっていきたいと望む目標の第1候補と第2候補を選択した。
- その後15名のメンバーは、それぞれの選択目標に従って、5名ずつ3グループに再編成された。この3グループは、オフサイト・ミーティングの後、定期的に会合を持ち3つの最も重要な目標を実施する行動計画を立てた。
- オフサイト・ミーティングが終了した時点で、ミーティングの振り返りの2つの質問を実施した。質問は「あなたはこの部門の状態にどれほど楽観的ですか、それとも悲観的ですか」。点数は、悲観的なほど1点、楽観的なほど5点を付ける。2つ目の質問は「このオフサイト・ミーティングの結果、どれほどプラスの変化が起こると思いますか」。全然信じない1点から、相当程度変化する5点と付ける。この質問は、ミーティングのプロセスを診断する容易な質問である。この時の結果は、どちらも肯定的であり、メンバーはポジティブな感情を持ったことが確認された。
バークは、このようなチームづくりを実施する場合の留意点を以下のように述べています。
- メンバーができるだけ広範囲に参画できるようにすること。
- 時間配分も能率的に組むこと。
- 小グループの討議を活用し、議論の質を高めるようにすること。
- 全体での情報共有は、フィッシュボール・ミーティング方式により、メンバーの参画度を高め、それぞれの考えが意思決定に影響を与えるようにすること。これによって、意思決定に対するオーナーシップが形成される。
- フォローアップ・グループも定期的に会合を開き、活動ステップの明確化と、それへのコミットメントを担保すること。
- 一定の期間をおいて参加メンバーに面接し、変化の程度を確認すること。
次回は、役割と責任の明確化についてです。
参考文献:[組織開発]教科書
この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。