~[組織開発]教科書から学ぶ㉒~パワーとOD 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-275
ODメディアでは、前回からパワーについて取り上げています。パワー(権力)という概念は、あまりポジティブにとらえられていない傾向もあるようですが、事を成すためにはパワーは必要です。パワーは使い方によってポジティブにもネガティブにもなります。前回のODメディアでは、パワーの種類を確認しましたが、今回はパワーの行使について考えていきます。
ほとんどのマネジャーにとってパワーの基本的な源泉は合法的(地位)なパワーです。マネジャーの地位や役割は、彼が所属する組織の制度、ルール、規範、価値観などが基盤となり、そこに付与されている権限によって合法化されています。しかしながら合法的パワーの領域は、その地位や役割に関する規範や価値観に他者が準拠する程度の範囲にとどまります。平易な言葉を使えば「部長が言っているからしょうがないよね」と渋々承認するということです。しかし、同じ部長であっても「彼が言っているのならやるしかないな」と、妙に納得する部長もいます。この違いはどこから来るのでしょうか。少なくとも、合法的パワー以外のパワーを活用しているといってよいでしょう。周囲のメンバーや部下もそれを承知しているのです。要するに、組織を変革するということは、人と人との相互作用のプロセスであり、変革はパワーの行使がなくては起こらないのです。そして、そのためには合法的パワーだけではないパワーの活用が必要になってきます。様々な調査で明らかになっていることですが、グループや組織の規範に準拠する傾向が強いのは、メンバーよりはリーダーであることが分かっています。そして、組織の規範を変えることができるのもリーダーです。したがって変革をもたらそうとするリーダーは、人々の協力を得るためにも参画的なリーダーシップを発揮する必要があります。このことは何を意味するのでしょうか、バークは4つの意味合いを上げています。
- マネジャーのパワーの源泉(7つのパワー)は、その数および範囲共に限界がある。逆に言えば、7つのパワーを全部持って、誰に対しても全能の神のようにふるまえるわけではない。パワーは他者が認知するところに発生する。
- マネジャーにとって土台となる合法性のパワーは、その組織メンバーが抱いている価値観や、その行使を適切とみなす度合いによって左右される。
- 従業員の価値観の変化によって、パワーの行使の仕方も変えていかなくてはならない(現代社会は、強制的パワーや合法的パワーより、情報パワーや人間的パワーが重視される)
- 多様性や個々人の権利をより許容する組織であれば、従来の統制的マネジメントではないやり方が求められる。つまり、より共生的で、非権威主義的な態度が求められる。
このようなことから、組織管理の在り方も、パワーの広範囲な共有を促進し、参画的なアプローチを進めることが求められるようになります。いわゆる、エンパワーという概念をマネジメントの中に持ち込む必要があるということです。このような変化を重視した主張として、ロザべス・モス・カンター(ハーバード・ビジネススクール終身教授)は、広範囲な社会的観点からパワーの源泉を説明しています。彼女によれば、合法的パワー以外の2つの重要なルーツがあるといいます。一つは活動(activity)であり、もう一つは人脈(alliance)です。
- 活動
活動には3つの鍵となる活動があります。
- 非凡な活動。つまり、新しい役割や担っているタスクに対して第一人者となること。あるいは、なるように努力すること。あるいは、組織上の特定の変革を実施する、大きなリスクを冒して成功することなど。
- 他者に認識可能な目立つことをやる。つまり、人の目につくことをやること。単なるパフォーマンスだといわれるかもしれないが、少なくとも名前を憶えてもらえる。
- 組織が抱える当面の問題に関連性のある活動を担う。
この3つのうち、(ア)と(イ)によって個人は影響力(impact)が持てるきっかけができ、(ウ)によって重要な情報源や人たちと接することができるようになる。カンターは(ウ)を人脈(alliance)と呼んでいる。
- 人脈
人脈のおかげで、我々は他人を通してパワーが提供される。重要な人脈は3つある。
- 組織の上層部に重要な後援者を持っていることは、つぎの3つの利益を得ることにつながる。
- 後援者は、自分の後ろ盾となってくれる。
- 後援者は、緊急時に組織のバイパスを可能にしてくれる
- 後援者は、自分が重要であることを他者に示してくれる
- 同僚との人脈も大切である。組織で何らかの影響力を発揮するには、同僚からの承認・支持が大切である。
- 部下との人脈。マネジャーは部下の潜在的な力を引き出さなければ、効果的に業務を遂行し、昇進に必要な堅固な基盤を築くことができない。
また、カンターのパワーレスネス(Powerlessness:パワーのなさ)に関する論考は、マネジメントにとって非常に有益です。彼女によれば、組織の中でパワーを持たないということは、システム・パワー(合法的パワー以外のパワー)を持たずに責任を持つことに等しいといいます。このような人は、公式の役目から命令を出す権限は持っていても、非公式な政治力や、リソースへの接近、外部での地位、スポンサー、あるいは組織で自由に動ける見込みなどが欠けていれば、その組織ではパワーがないと解釈されます。つまり、それは自分自身の運命の統率力にかけ、自分より上位の人間に依存しているとみられるからです。これはとても重要なことを私たちの教えてくれます。パワーを持っていないと感じることは、決して良い気持ちではないので、人はこの気持ちを捨て去りたいという当然の反応を示します。合法的パワー以外のパワーのない人間は、自分を守り防衛するために(防衛メカニズム)、皮肉なことに他者を統制しようとします。カンターは、「組織で地位が低く、昇進の可能性のない人たちは、きわめて指示的であり、厳しい権威主義的なリーダーシップを好む」といいます。そしてこの態度は、相手が抵抗することが多いので、ますます権威的になるという悪循環を引き起こすとしています。このデータはアメリカでのデータなので、日本の組織や文化では異なるという意見があると思いますが、気を付けなければならない指摘です。
パワーレスネスの他の現れ方としては、ルールに対する執着、なわばり意識などがあります。つまり、パワーレスネスは、どのように考えても組織にとって望ましい結果をもたらさないのです。ところが、私たちの組織は従来の主要な路線にいた人(アメリカでは白人男性、日本でも男性)以外の人たちが、責任ある地位についてもシステム・パワーを得る機会を十分に与えない場合が多いようです。それは、実は既存の権益を守っているだけであり、組織にとっては望ましいものではありません。カンターは、パワーレスネス問題を解消するには、その人間にパワーが得られる状況を作り出すことが大切であるといいます。ですから、エンパワーメントという概念とその実行が重要なのです。重要なことは、パワーは組織の人間的側面において、絶対的なエネルギー源であるということです。自己肯定感が高まり、自分自身で意思決定し、行動の選択ができるということは組織の活力を高めるうえで必要不可欠なのです。このエネルギーを効果的に活用することがODにおいてもとても重要な課題になります。
参考文献:[組織開発]教科書
この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。