~組織文化とOD⑧:内部統合の課題②~

組織開発(OD)の実践って、どうするの?-206

 

前回から、組織文化の内部統制機能を取り上げています。共通言語と概念分類は、コンセンサスを構築するために必要となります。それはコミュニケーションの前提であり、グループとしての存続だけでなく、内部の者しか理解できない専門用語を通いて、差別化したり、一体感をつくったりします。つまり、他のグループとの境界線を築くのです。それはどのようなものなのかを見ていきましょう。

①グループの境界線に関する合意~メンバーになるための基準

グループが機能し発展していくために必要な分野の一つは、誰が新しいグループの「内側」にいて、誰がグループの「外側」にいるのか、そしてどのような基準で内と外の認識や意思決定が行われるのかについてです。どのような人も、メンバーとしての地位が不安定な場合、その力を発揮できません。それは、新入社員もスカウトされた社長や役員も同じです。How to Liveがうまくいかないと仕事に集中できないのです。グループでメンバーに求める基準が明確でない場合、そのグループは単にサブ・カルチャーの寄せ集めグループになってしまい、一体感のある行動を望めないでしょう。M&Aもこのようなことに配慮することが大事であるという良い事例がシスコシステムズです。シスコシステムズは、1990年代半ばから2000年初めにかけて、買収で技術と人を増やして成長していった会社ですが、その際に重視したのがシスコの文化との相性です。シスコは、買収時に相手企業の組織文化やマネジメントスタイルを慎重に調査し、シスコがまだ小さかったときの文化と似たような文化をもった企業(シスコキッズ)を好んで買収したそうです。

文化は、新しい技術を活用しようとする際に非常に大きな問題になります。新しい技術は、それを理解した人たちと共に既存の組織に入ってきます。しかし、既存の組織がそれを認めないと、新しい技術は結局のところ活用できないのです。近年の兵器では「ドローン」が注目されていますが、アメリカ軍においてドローンの活用を最も拒んでいたのが現役のパイロットだそうです。また、アメリカ軍空母の艦長はパイロット出身者だそうですが、このような人事システムも新しい技術を活かしていく際に弊害になったりします。つまり、ドローンを扱う人たちが将来的に昇進についてもハンディキャップが無いようにしておかなければ、その仕事に就こうとしないからです。

組織が大きくなると、そのメンバーも境界線を跨ぐ仕事が多くなります。従って、複雑な社会では、私たちは多くのグループに関係し、意識としてはどれか一つのグループに結びついていないことも多くなりました。ですから、特定の組織は、実際はサブ・カルチャーが重なり合う複雑な集合体であるかもしれません。とはいえ、メンバーシップの基準についての合意が、ある特定のグループに文化の単位が存在するかどうかを決定する重要な手段であることは確かです。

 

②階層化~影響力や権力の差異を明らかにするための基準に対する合意

どのようなグループも重大な問題の一つは、グループ内での影響力、権力、権限をどのように配分するかです。人間組織の中でも、統制問題は組織運営において非常に重要な根源的な懸念です。階層化、つまり統制システムを確立するにおいて何が重要になるのでしょうか。例えばA社では、権力は個人の能力と仲間からの支持から生じます。年功や職務内容などはあまり影響しません。A社では交渉力、説得力、状況判断力などが強調され、地位に関する形式的制度はあまり重視されません。一方B社では、年功や忠誠心あるいは上位の権威者から割り当てられた仕事の成果にもとづいて権力配分を行う、どちらかといえば非常に形式的な制度を持っている。B社は、礼儀正しさ、形式、良識などを重視します。そしてA社、B社ともいったんその「内側」の資格を獲得すると、それは「家族」の一員となりその資格は失われることがありません。文化を見極める際に注意しなくてはならないことは、A社もB社も強い家族的意識とリーダーに対する感情的依存があるから「温情主義的」であると、レッテルを貼って理解しようとすることです。しかしながらこの2社は、権限の配分の仕方は決定的に異なります。特定の象徴的なレッテルを貼ることは、文化の理解に役に立たないのです。

 

③同僚の関係~親密さ、友情、愛情の基準に関する合意

権力配分は、人間集団における攻撃的感情にどのように対処するかという必要性から取り組まれますが、同僚関係は、好意・愛情・性的関係をどのように扱うかという必要性から生じます。文化は、男女の役割、友情や異性間の問題に関する規則を作り出し、相互の関係を安定させるために役立ちます。今日では、ジェンダー問題として認識され、取り組まれていることの多くは、関係性に対する新しい合意形成の仮定として捉えることができます。

 

④賞罰の分配~報奨制度に関する合意

報奨制度は、どのような組織であっても人々の行動に強い影響を与えます。ある組織では金銭的報奨や昇給を良い成果への見返りとして活用していたのに対した、別の組織では金銭的ではないよりシンボリックな報奨、例えば表彰や名誉バッジ、ある特定のグループへの入会を許されるエンブレム付きブレザー、のようなものに依存している場合もあります。報奨制度は、通常、他の重要な文化的テーマを反映しており、獲得した報奨はその人にとっての社会的財産と見なされます。報奨制度の内容は、その組織が持つ文化の重要な規則や底流にある仮定を理解する上で役立ちます。

 

⑤宗教とイデオロギー(独特の考え方)~管理不能なものをどのように管理するか

長い歴史を持つ組織では、危機的な出来事をどのようにして乗り越えてきたかに対する物語があります。それは組織が困難な状況から抜け出る「方法」であるとみなされていることが多いものです。シャインはそのような、危機から抜け出すその組織固有の思考や行動を「宗教とイデオロギー」といっています。日本ではそのような言い方はしないでしょうが、少なくとも長い歴史を持つ企業は危機から抜け出す固有の方法を持っているようです。例えば、以前私が所属した会社では業績不振の時にはほとんどの場合、営業活動の強化(もっとお客を回る)を選択していました。組織が過去に、主要な競争相手にどう対処したか、景気下降期にどのようなことをしたか、新商品をどのように開発してきたか、どのように従業員を処遇してきたかなどに関する物語は、基本的な使命や特定の目標を明らかにします。

逸話や例え話のように口伝えの歴史を通じて、組織はそのイデオロギーや基本的な仮定を、具体的な事例で新参者に伝えることができます。そして、新参者はその組織がどのような仮定の下に動いているかを知ることになるのです。

 

文化は、外部や内部の課題を解決するだけでなく、不確実な状況に対処する時に経験する「不安」を低減する機能をも有します。文化的仮定は、私たちが環境の中のある部分に焦点をあて、知覚することを助けるフィルターまたはレンズと考えることができます。そして、不確実な環境にあっても、フィルターまたはレンズを通して一定の方向にそれを理解すれば心理的安定を得ることができます。プロパガンダはこのプロセスを助ける役割を担います。従って、私たちが文化の変化を拒む一つの理由は、異なった仮定の方がうまく機能するかもしれないとしても、従来の仮定を捨てることは不安を内在的に作り出すからです。このような意味で一旦取得した文化的仮定は、不安を提言させる機能として働くので、それを捨てるのはなかなか難しいのです。組織文化の変革が一筋縄にはいかない原因は、こんなところにあるのですね。(続く)

  • 参考文献 「組織文化とリーダーシップ;H.シャイン」

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。