• 研修とODって別のことなの?④~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-140~

研修とODって別のことなの?④~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-140~

A社でのワークショップ

A社で実施した4回のワークショップがどのようなものだったかを見ていきましょう。ワークショップを実施する前に、社長・総務人事取締役・設計部門責任者などを対象に実施計画について説明し合意を得、ワークショップに臨みました。

各回のテーマは以下になります。

・1回目:設計部門としてのミッションと各課のリレーションの再確認を行う。

・2回目:設計部門と関係する他部門との協働関係を再検討する。

・3回目:チーム内メンバーの協働関係を明確にする。

・4回目:これまでを振り返り、継続して問題解決に取り組むべきことを明確にする。

この回の間には、実施内容について社長報告を実施。実際のワークショップは、各回での参加メンバーの学習度合いをみて、事前計画とは異なる内容のものを実施することもありました。組織開発(OD)は、当事者の参画や当事者中心主義という基本的な哲学があり、当事者の状況や学習度合いによって、当初の計画が変更されることはむしろ推奨されるべきことです。このことを計画的日和見主義と言います。

まあ、アクションリサーチの真骨頂ですね。各回は2週間から3週間の間隔を置いて実施されました。ここでは各回のトピックスを見ていくことにします。

ワークショップの1回目は、設計部門のミッションと成果指標の再検討と機能展開図(リレーションマップ)に基づく、他部門との関係性を議論しました。

図-1.機能展開図の例

設計部門のミッションは設計部門のチームづくりをしていく上で最初に確認すべきことですが、1回の議論で終わるのではなく、2日目までの宿題となり以降何度か議論をしていくことになりました。それは、設計部門の認識だけでミッションや成果指標を決めるのではなく、他部門との関係の中でそれを明確にしていく必要があったからです。

つまり、自分たちの仕事は「他部門との連携」の中で行われているのであり、その連携の中で相互に何が期待されているのかを確認しながらミッションや成果指標を検討していく必要があります。事前インタビューに基づき作成した機能展開図も、設計部門のメンバーに、後には他部門のメンバーに、各部門の相互協力関係を再認識してもらうためにフィードバックしました。

今回のケースの場合は、機能展開図を活用することによって、組織の各機能(部門)のインプットとアウトプットで要求されることを再確認し、機能単位では何をすべきかを議論しやすくすることが出来ます。A社のワークショップでは、1回目に設計部門独自で検討し、2回目のワークショップで他部門からの期待や要求を相互に交換する時間を持ちました。

2回目では、設計部門に対してだけでなく、各部門単位で相互に期待することを書き出し、それに対する意見交換を実施しました。このような討議をしたことで、従来は設計部門がボトルネックだという認識が強かったものが、そうではなく他部門との関係性にこそ解決すべき課題があるということが、討議参加者に強く認識されることになりました。つまり、他部門も従来の行動を変えていかなくてはならないという認識が芽生えたのです。

特に顕著だったのは営業部門との関係です。ここは、A社でもNo2的な実力役員が責任者として部門を率いていました。このような中では営業部門の発言権が強く、設計部門は営業部門の下請け的存在でした。ところが、このような関係では、すべてが顧客の言い分を是とするような受注であり、そのような受注の仕方では設計部門だけでなく、資材や生産にもさまざまな負荷がかかっていることが理解できたのです。

実力役員もそのことについて改めて認識することが出来、参加者の話し合いによって「営業と設計は協働して顧客の要望を製品に反映させる存在」という考え方が共有できました。

1回目と2回目のワークショップを通して明確になった関係性は、営業部門の実力役員とその他の部門長との関係です。営業部門の実力役員は、A社にとって長年の功労者なのですが、そのことが却って他の部門長との関係を硬直化したものにしてしまっていたのです。

設計部門の生産性向上は、設計部門だけの問題ではなく、営業部門の実力役員との関係性の問題でもあったのです。この後、営業部門は顧客志向でありながらも、自社の実力をしっかりと見極めた交渉を顧客と行うという行動を重視するようになっていきました。

資材購買部門や生産部門も他部門からの期待を改めて確認することが出来、直ぐにできること、時間をかけて改善すること、期待を表明した他部門に対しても要求してお互いの協力によって改善することを明確に認識することが出来ました。これによって、設計部門の生産性向上の問題は設計部門だけの問題ではなく、全社の受注機会開発の課題として認識されるようになりました。

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です