戦略と組織開発②~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【105】~

組織開発(OD)を支援しているコンサルタント会社の中には、戦略の浸透を支援するといううたい文句でプログラムを提供している会社があります。
確かに経営陣がせっかく苦労して策定した戦略ですから、それを効果的に浸透させたいという気持ちは分かります。それが特に過去、戦略を効果的に実践できていないという認識がある企業なら尚更ですね。それはそれで大切なことです。
しかしながら、ODメディアで以前掲載しましたが、優れた戦略的意思決定とその実践は、単にトップダウンではなく、出現する新しい環境の動きを現場が捉えて、その情報をボトムアップ的に経営層に持ち上げ、経営層が従来の戦略方針を見直し、新しい機会を取得したり創出したりするべく方針を打ち出す。
そして、現場は自分たちの動きを加速させるという、情報認識と意思決定および実践のポジティブな循環プロセスがあります。
システムやソフトウェアにおけるプロジェクト開発では、大きな単位でシステムを区切ることなく、小単位で実装とテストを繰り返して開発を進めていくことをアジャイル開発といいますが、戦略決定と実行のプロセスもアジャイル(俊敏性)が必要です。
戦略意思決定と実行は、組織内外の情報探索・収集と意思決定プロセスの質に深く依存します。戦略意思決定をサポートしてくれるICTは飛躍の一途をたどっていますが、やはりヒューマン・プロセス(human process)領域の影響を強く受けます。
ではヒューマン・プロセスとはどのようなことか。例えばそれは以下のようなことです。
●How to communicate :コミュニケーション
●How to solve problems :問題解決
●How to make decisions :意思決定
●How to interact :相互関係
●How to lead :リーダーシップ
組織活動のアウトプットを直接的な影響を与える要素は「タスク:何を手掛けるか」ですが、その実行の質を左右するのは、人的資源の質や組織構造のみならず、ヒューマン・プロセスの質です。そして組織のアジリティ(機敏性)の質を高める働きかけはヒューマン・プロセスの質的改善を伴うものでなくてはなりません。
そしてここは組織開発(OD)の出番ですよ。だから、戦略意思決定とその実行の質を高めるには組織開発は有効な手段だと思うのですが、そのように考える会社はまだ少数なんですね。
で、何をするかと言えば、社内MBAで個々人を鍛えようというアプローチです。分かりやすいんですが、優秀な個人の集まりが優秀な集団や組織を無条件に形成しないことは分かっているのに、そこに頼ってしまうんですね。どうしても「私が知っている方法」で物事を解決しようとしてしまう。何とかならんもんでしょうかね。
MBA方式を否定するつもりは毛頭ありません。一橋大学が行った「組織の<重さ>」研究(2007)では、戦略意思決定と実践が期待通り進まないことの原因の一つに管理者クラスの戦略リテラシーの不足が上げられています。
私も社内MBA研修を担当することがありますので、この研究が明らかにしたことはよく分かります。でもね~~、というようなことをつらつら考えていると、意思決定の迅速さと企業業績との関係を研究している論文があったんですよ。それは、「急速に変化する環境における迅速な戦略的意思決定:キャスリーン・M・アイゼンハート」という論文です。
もちろんヒューマン・プロセスに言及している論文です。次回からこの論文を参考にして戦略と組織開発の関係を紐解いていきたいと思います。
※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です