• チームのレジリエンス~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【103】~

チームのレジリエンス~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【103】~

今年はコロナ禍で、個人も組織もレジリエンスが求められる年でした。日本でもレジリエンス(resilience)という言葉が人事やマネジメントの中で使われるようになってもう5~6年が経とうとしています。

レジリエンスとは、弾力・回復力・復元力という意味を持つ言葉で、もともとはストレス(stress)と共に物理学の分野で使われていた言葉です。

組織開発(OD)の視点では、「複雑かつ変化する環境下でも、それを乗り越え未来をつくるチーム/組織の適応能力(JoyBiz、JPPAでの定義)」を表す言葉として使われます。今年最後のODメディアは、チームにおけるレジリエンスに焦点をあてたいと思います。

 

 

チーム活動の質を上げていく取り組みはチームビルディング(以下チームづくり)と言われ、マネジメントやスポーツの世界ではすでに定着している概念です。チームづくりとは、一般的には「メンバー一人一人が、主体的に個性や能力を発揮しながら、一丸となって目標達成を目指すチームになるための取り組み」と言われます。

それに対してチームのレジリエンスは、困難な状態に遭遇したチームをRe-Buildingしていく力と云えます。鍵は関係性です。ダニエル・キム教授の成功循環モデルで良く知られているように、チームにおける関係の質は結果の質にとても大きな影響を与えます。

なぜかと言えば、私たちは他者との関係で問題を抱えていると、自分がやるべきことに集中できず生産性が下がるからです。

 

集団がもつ無意識層について研究したウィルフレッド・ビオンは、私たちが不安や恐れをコントロールできなくなると、不安領域(BASIC ASSUMPTION-MENTALITY)が意識領域(WORK-MENTALITY)を侵食し、結果その人自身や集団の生産性が低下するということを明らかにしました。

また、ヒューマン・エレメント概念で有名なウィル・シュッツは、チームの1人または何人かが自分の立場や意見に固執し柔軟性がなくなると、チームの生産性は低下し非生産的な意思決定や行動を誘発することを明らかにしました。

どちらも感情的側面の重要性を指摘しています。チームメンバーの不安や恐れという感情的な問題に対処できないと、チームは硬直化してレジリエンスが低くなるんですね。

 

ではどうすれば、メンバーの不安や恐れという感情的な問題に対処できるようになるのか。その根本の力は「自分自身を知ること、自分自身を理解する力を高めること」です。シンプルだけど深いな~~(-.-)。W.シュッツの言葉を借りると「Profound Simplicity」です。

 

ポジティブ心理学の分野で、個人のレジリエンスを高めるために開発すべき項目がありますが、その土台はやはり自己理解です。参考までに個人のレジリエンス・コンピテンシーを見てみましょう。「自己への気づき、自己コントロール、現実的楽観性、精神的柔軟性、強みとしての特性、関係性の力」の6つです。

詳しくは宇野カオリ(日本ポジティブ心理学協会代表理事)著、レジリエンストレーニングを参照してください。

 

 

さて、不安や恐れという感情的な問題に対処できないチームはなぜ硬直化してしまうのか、ということをもう少し掘り下げていくと、それは私たちが不安や恐れを無意識に避けたいと思う「防衛機制」という心理的メカニズムに行きつきます。

防衛機制(defense mechanisms)は、アンナ・フロイトが整理した概念であり、自分自身の中にある嫌な否定的な感情を隠すためにとってしまう無意識の行動です。

例えば、「攻撃:脅威を感じると反射的にそれに向かっていくことで自分を守ろうとすること。自分の弱みを指摘され、それに対処できない場合に出てくる。」とか、「否定(攻撃の逆):自分を責めることで、他者からの非難を逃れる」などという行動に現れます(他にも、抑圧、補償などいろいろあります)。

従って、個人としては自分が無意識にやってしまう防衛機制の理由を探っていき、それは本当に合理的な意味ある行動なのかを検証することが求められます。ではチームではどうなのかというと、個人が抱えているチーム活動に対する不安を表明できるような雰囲気があるのかがポイントになります。参考までに、ジャック・ギブの4つの不安や懸念を見てみましょう。

 

①受容の不安や懸念:私は他の人に受け入れられているか。

②コミュニケーションの不安や懸念:私はどのように行動すればよいのか。

③目標の不安や懸念:ここで私は何をすればいいのか、みんなは何を達成したいのか。

④統制の不安や懸念:ここで私は誰にあるいは何に従って行動すればよいのか。

 

つまり、個人が抱えているチーム活動に対する不安を表明できるということは、4つの懸念を個々人が抱いているときに、メンバーがお互いにそれを認めることが出来るほど受容的になっていて、チーム全体にそれらの感情を認める気持ちがあるということが、チームのレジリエンスにとってとても大切なんですね。

メンバーがやみくもに頑張ることは必ずしもチームのレジリエンスには貢献しないのですね。エイミー・エドモンドソンの心理的安全性も同じです。これがあるから、みんなリスクを冒しても大丈夫と思えるのです。私たちは、自分の考えや好みに合わない他者の考えや行動を否定するのではなく、一旦受容しなぜその様な考えや行動、そして感情を抱くのかを焦らず話し合うことが大切なんですね。

ちょっと考えれば当たり前ですけど、かくいう私もなかなかできないですね。今年最後のODメディアは、「複雑かつ変化する環境下でも、それを乗り越え未来をつくるチーム/組織の適応能力」というチームのレジリエンスについてお話ししました。

 

早くマスクなしで過ごせるようになると良いですね。では、良いお年をお迎えください。

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です