ポジティブ組織開発の実践~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【56】~

~アプリシエイティブ・インクワイアリー(Appreciative Inquiry)
今回のODメディアはポジティブ組織開発の実践方法の一つである「アプリシエイティブ・インクワイアリー(Appreciative Inquiry)」とその実際のケースについて見ていきます。
ところでAIのAとIは以下のような意味です。Appreciativeは「真価がわかる」「価値を認める」、Inquiryは「探求」「質問」などの意味を表します。AIは、ポジティブな問いや探求によって、個人と組織における強みや真価、成功要因を発見し、それを認め、それらの価値の可能性を最大限に活かした最も成果が上がる有効なしくみを生み出すことを目指します。具体的には、以下の「4Dサイクル」といわれるプロセスに沿って進められます。
Discover(発見)
・過去や現状における成功体験などについてインタビューを行い、個人や組織が潜在的に持っている強みを見出す
Dream(夢)
・組織や個人の持つ長所や内在する可能性をもとに、組織の理想像・ビジョンを描く
Design(設計)
・実現したい理想像やビジョンを共有し、可能性を最大限に生かした組織の姿を設計する
Destiny(実行)
・実現したい理想像の実現に向けてアクションプランを実行し、持続的に取り組む
ケースは以前のODメディアでも取り上げましたが、日経ウーマンが選ぶ「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2020」の大賞受賞者である小巻亜弥さん。サンリオピューロランドの業績回復物語です。(NHK 仕事の流儀から抜粋)
小巻さんは、来場者数が低迷し赤字が続いていたテーマパーク「サンリオピューロランド」に着任し、5年で黒字化させるという“奇跡のV字回復”をけん引。来場者数は18年度に過去最高の219万人を記録。その手法は、社内のコミュニケーションを見直すという“組織変革”。社員全員と面談するなど“人を育む”施策を重ね、全員が自発的に動く組織へと変革させた。ではどのようなことをやったのでしょうか。
彼女の経営者としての信条から見ていきましょう。
・小巻さんの組織の見方:会社は人の集まり、そして人は感情の束でできている。
・経営者とは「人を知り、可能性を信じて、花開かせる」人。どんな時にがんばるのか、それを知って一人ひとりに対応する。「信じて、支え、伸ばす」、「褒める、認める、承認する」。
・生きている醍醐味は「人の夢を応援できること」。
根っからの人間志向ですね。
次に、彼女の経営再建の取り組みを見てみましょう。キーワードは、対話・聴く・励ます。「私、責任取る気満々ですから」。
・一人ひとりの思いを聴きだす。とにかく面談しまくり。面談の中で何をしたいのか、どうなりたいのかを聴きだす。
・枠を外す、従来の見方を変える。地球規模でカワイイを考えよう、キティちゃん歌舞伎、ITベンチャーとのコラボ。
・挑戦させる(ストレッチ)。大分・日出町のサンリオキャラクターパーク。台風によるイベント中止にも拘らず当初予想を上回る来場客。
・励まし、責任は小巻さんがとる「大丈夫やろう!」。 二言目には「○○さんにやらせてもし失敗したら、私が責任を取ればいいだけの話」。
彼女がやった事をAIの4Dサイクルで整理すると、
Discover(発見/聴く):どのようになっているのか人々の現状や思いを探る
・一人ひとりの思いを聴きだす:とにかく面談しまくり。面談の中で何をしたいのか、どうなりたいのかを聴きだす。
・拘り社員(河原さん)の発見。
Dream(夢/目的):どうなっていきたいのかみんなの夢をコトバにする
・戦略キーワード「大人に刺さるカワイイ」。従来は小学生がターゲットだったが、大人女子をターゲットにしたテーマパークづくりへ変更。
Design(設計/戦略):どのようにして夢を実現するのか戦略を考える
・増田セバスチャン、ヒャダイン、MIKIKOを起用し従来のイベントの在り方を変える。
・フードメニューを一新、フォトスポット設置。インスタ映えネット拡散で客が客を呼ぶ。
Destiny(実行):焦点を絞り集中して実行する
・枠を外す、従来の見方を変える:地球規模でカワイイを考えよ
・挑戦させる(ストレッチ):大分・日出町のサンリオキャラクターパーク
・励まし、責任は小巻さんがとる:大丈夫やろう!
~リーダーシップは人生そのものである~
でもこれは彼女の人生が詰まった戦略なんですね。小巻さんのプロフィールを見てみましょう。
1983年に株式会社サンリオに入社。3児の母。60才(2019年)。
中学時代のボランティアでは、友人から亜弥がやっていることは偽善だと言われ悩む。でも、施設で雑巾3枚縫って子供と遊び、先生はその間別の仕事ができる。これがすべてだと吹っ切れる。
25才で結婚。34才、3男がお腹にいる時に2才の次男を事故で亡くす。母としての自信を無くし壊れてしまう。37才の時に離婚。そんな中、生きていていい理由が欲しくて化粧品会社で我武者羅に働く。その間、長男にも完璧を求める。長男が高校生の時ママ友に「長男が孤立している」といわれ、夜中に寝ているところを除くと、180cmの長男が背を丸めて寝ていた。それを見てひざがガクッと折れた。
心理学などを学び直し、長男への対応も変える。長男が希望校に入学できたときに長男から「最近何にも言わないよね」といわれ、「信じていたから」と返事をすると長男がニヤッと笑った。それから人を信じることの意味が分かった。乳がんで左乳房の全摘出。その後、子宮内膜症と子宮筋腫により子宮の全摘出。サンリオ復帰後、2014年よりサンリオピューロランドに赴任。2019年、日経ウーマン(日経BP)が選ぶ「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2020」の大賞受賞。
と、ある意味壮絶な人生を歩まれています。その中で自分を見つめ直し、自分の中に軸ができ、それが経営に生きている。要するに、彼女のやっていることは本の知識の受け売りではないんですね。そこに彼女の迫力がある。そして、一人ひとりを活かす経営を実践する。これってポジティブ組織開発の実践ではないでしょうか。
※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です