無いものは出ない~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【54】~

~無いものは貰うしかない~
前回「見えないものを見るって、難しい」というような趣旨でODメディアを書いていますが、それは少なくとも無意識であったとしても、「自分の信念体系」を探ることができる言葉を持っている場合に有効な手立てです。でも、そもそも新しい世界に適応していくための観念や価値観というものに対して全く無知でそれを表現する言葉を持たない場合はどうするか? これはもう誰かに教えてもらうしかありません。組織開発(OD)をやっているとそのような場面に出会う事があります。
例えば、企業が新しい環境に立ち向かうときどのような価値観が必要になるのかといったことに対しては、新しい世界観を表現する言葉を知らなければそれは提示できないし、イメージできないのです。
「はじめに言葉ありき」とはよく言ったものです。キリスト教学的な難しいことは省きますが、言葉がなくては何も生み出されないという事です。ヨハネ福音書の1章3節には、「万物は言によって成った。成ったもので、言によらずに成ったものは何一つなかった」と書かれています。
逆に言えば、観念の中にある何かは言葉を通して実態として理解されるという事です。従って、我々の未来も言葉を使ってそれを示さない限り誰にもイメージされないという事です。ただし、その言葉から生まれる世界を誰しもが受け入れるとは限らないでしょうが。
さてここまで書き進めてお分かりのように、組織が新しい環境に適応していこうとして従来のものの見方や考え方を改めようとしたとき、従来のものの見方や考え方をベースとしたナラティブから新しい言葉が生まれ、それが新しいナラティブを創ることができるのかという事です。これ、とっても難しいというのが私の経験です。
そのため、そのような場合、従来の世界に住んでいた人たちだけで対話(dialogue)しても出てこないのですよ、適当な言葉が。だから、そのような場合は「思想を持った人の講演会を聴く」とか、「異なる考えや思想を持った外部の人あるいは第三者と対話する」とか、「外部者が原案を提示する」しかありません。
ゆっくりやってもいいよ、という事であれば組織内部の選抜者に対して異質な体験やさまざまな古典・文学的素養のインプットをしてもらい、そこから新しい世界観を打ち出してもらうという事が望ましいでしょうが、現実はなかなかそうならず、第一そんなことを準備している組織はほぼないですから、追っ付け「直ぐ考えろ」となるのです。そうすると、やはり第三者の力を借りることになるのですね。
~言葉での新しい世界観は実践で示す~
さて、すったもんだした過程を経て新しい世界観を言葉で表現できたとしましょう。次にどうするか、それを実践する誰かとそれをポジティブに評価するマネジメントが必要です。
例えば「創造:自ら新しいものを創造していく力」という言葉が提示されたとします。その場合は、新しいサービスやマーケットの開発に果敢にチャレンジする人を称賛し、失敗を許容してそこから学ぶというマネジメントを実践しなくてはなりません。そうすると、とにかくチャレンジする人を発掘しその人に任せる。その上司や経営者は、失敗しても次の敗者復活や以前のポジションを保証するといったことを認めるという事をしなくてはなりません。
このようなことを繰り返して初めて「創造」という価値観が単に言葉ではなく、行動となり、思考習慣(ナラティブ)となり、組織文化となるのです。理念という形で文章にしただけでは現実にならないのですよ。組織に浸透させるには「実行と演出」が大切なのですよ。要するに「見せる」「言葉の見える化」が求められるのです。
ここでも、やっぱりリーダーの行動が重要ですね。リーダーの行動は組織文化の形成にとても影響を与えるのです。下記の10項目はリーダーの行動が組織文化に大きな影響を与えることを示しています。(E.シャイン、組織文化とリーダーシップより)
(1)リーダーが注目し、測定するもの。何に報い、何を罰するのか。
(2)組織の重大な出来事に対するリーダーの反応。
(3)リーダーによる役割モデリング、教育、指導。
(4)採用、選抜、昇進、退職、免職に関する基準。
(5)公式及び非公式の社会化(価値や考え方の教化)。
(6)組織のシステムと手続き。
(7)組織のデザインと機構。
(8)物理的空間や建物の設計(オフィス・レイアウト)。
(9)重要なイベントや人物に関する物語、伝説、神話。
(10)組織の倫理規定、設立趣意書、価値観などを記述した文書。
リーダーは、ほんと大変ですよ。自分の一挙手一投足が見られていますから。
変革の実行は、自分が今まで大切だと思っていた価値観や評価の物差し、および自分自身の行動といったものを問い直し、それを誰かの具体的行動で見えるようにしていくことが大切です。
この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。