「組織の罠」が発動すると問題が解決されず放置される
最近読んだ本で、個人的にインパクトのあった書籍がありましたので、今日はそれについて書こうと思います。その本は「組織の罠 ー人間行動の現実ー」(クリス・アージリス著)です。クリスアージリスは、有名な方なので、ご存じの方も多いと思います。こちらの書籍も読んだことあるよ、という方もいらっしゃるかと思います(読んでみると個人的には結構読みごたえがありすぎてなかなか先に進めない箇所もあったりで、さっと読める本というよりは、骨が折れる本ではあるかと思います)。
個人的に何がインパクトがあったかというと、理論の内容(後述のようにこの本は何故組織の問題が解決されない状態に陥るのかを「罠」というメタファーで明快に分析しています)ももちろんなのですが、この罠を乗り越える重要性を訴えかける著者の熱量というかエネルギーが熱い、という点です。人によってはしつこいよ、と思うくらい、この罠の構造を繰り返し指摘し、ここから目をそらす識者たちに警鐘を鳴らしています。2013年に亡くなられたとのことですので、本書はその遺稿のような側面も持つメッセージというわけです。
いはく、罠の状態とは、
「非難の矛先を他者や組織システムに向け、自らの責任については何もかも否定する。次に直面する事柄を議論不可とすることで責任否定はなかったことにする。さらにこのようなご都合主義を貫徹させるために議論不可としたこともなかったことにする。かくして人々は自分たちは組織システムの犠牲者であるという心的枠組みを構築して何もできない無力な存在となる。」
というような状態のことです。
言葉は難しいですが、私たちには心当たりのある現象ではないかと思います。
何か困難な局面(誰かに言いづらいことを指摘するときとか・・・)にあるときに、それを言わない選択をしがちです。そこから罠にはまっていきます。
そして
「(困難な局面や厄介になりそうな事態に直面すると)罠を作るふるまいをするだけでなく、罠にはまってもそれを巧みに意識しないようにしている」
というループにはまり、それに触れないように巧妙に自分も状況も隠ぺいしていくことでさ罠にはまるという現象です。
この現象の背後にあるメカニズムを「標榜理論」と「実用理論」という言葉で著者は解き明かします。標榜理論とは私たちが日々目指している理想的で望ましい価値基準です。そして実用理論とは、標榜理論にかかわらず実際の行動を起こすときに採用している価値基準のことです。
信頼あふれてなんでも言いあえる文化を「標榜」している人たちが、いざ違和感のある事象に臨んで率直に指摘しないという「実行(=実用)」ことはよくあることですよね。
著者はこの乖離に対して有効な手を打たない限り、組織の問題は本当の深いところは解決されないままになると警鐘を鳴らしています。組織改革のための手法は様々なあるわけですが、この部分に着手せずに表面的、手法的な改革のみでは、いつでもそこにいる人たちは罠を発動させて、本当のところ話し合わなければならない問題を隠蔽し続ける。そのためこの領域を無視した組織変革、文化変革などありえないと主張しています。
そのための解決の重要な方向性の一つが「ダブルループ学習」だといいます。
※ダブルループ学習とは、自分の言動などを表面的に振り返るのではなく、その背景にあった自分の価値観や態度を振り返る学習方法です。考え方ややり方の改善に焦点を当てるのではなく、そう考えている、そういうやり方を採用している自分自身に改善(認知)の焦点を当てるということです。
組織の「ダブルループ学習」力を上げるということはこれからの組織づくりにおいて(も)大きな課題であり、様々な方法論が開発されるのが待たれる領域だと感じます。
※有名な「学習する組織」などで提唱されている方法論などもありますし、ほかにもいろいろなやり方が開発されていますが、うまく導入定着されている組織はまだまだ少ないという実感を感じております。
ご関心をお持ちの方は是非ご一読ください!