「主体性の罠」 – 組織における認知ギャップの課題

今日は組織の中でよく耳にする「主体性」という言葉について、深く掘り下げて考えてみたいと思います。「主体性がない」「もっと主体的に」といった言葉、皆さんも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?

実は、私がさまざまな企業を訪問し、組織の課題をヒアリングする中で、驚くほど共通して出てくるのがこの「主体性」というキーワードなのです。一見、多様な人材や異なる業種の企業で、課題も千差万別のはずなのに、なぜか「主体性」という言葉に収束していく。これは非常に興味深い現象だと思いませんか?

ここでふと立ち止まって考えてみました。「主体性がない」というが、これは本当に「主体性がない」のでしょうか? 私の経験では、ほとんどの場合、実際には主体性が欠如しているわけではありません(もちろん多くの人が守っているルールや決められたことをやっていない、など最低限のことも主体的に取り組んでいない、など一部の例外はありますが。)。むしろ、多く標準的な人々は自分なりの「主体性」を持って日々の業務に取り組んでいるのです。

では、なぜ「主体性がない」という評価が生まれてしまうのでしょうか?

これもクライアントの現場でいろいろな人の意見や感情に耳を傾けていると、そこにはある重要な前提が隠れています。その前提とは、正確に表現すると、ここで出てくる主体性とは、自分が期待する主体性なのです。つまり「(自分や組織が期待しているような)主体性を発揮していない」という状態なのです。こう考えると、実はこの問題は、自分が期待する主体性と相手が発揮していると自覚している主体性が異なるという「認知ギャップ」が問題の本質なのです。

「主体性」の構造を考えてみよう

そもそも主体性という概念は、ビジネスでも部下指導の場面や組織課題を検討する場面でも常々口にされるとても汎用性の高い用語ではありますが、その分実はとても広範囲なことを意味していて、様々なレベルの話を一緒くたに主体性と語られてしまうこともしばしばです。

例えば、会社に入りたての新入社員が自発的に職場の掃除をするのも主体性ですが、あるマネジャー人材が、社会変革のために全てのリスクを背負って会社をおこして起業するのも主体性です。このように、主体性にはレベルや範囲があり、それぞれの立場や状況によって異なる形で発揮されるのです。そして最大のポイントだと思うのですが、主体性の範囲は基本的には無限に想定できるということです。

半径1mの主体性を発揮しているケースもあれば、実は半径1000mの主体性を期待されている、なんてことも少なくありませんよね。

重ねて言いますが、重要なのは、ほとんどの人が自分なりに「主体的に」行動していると考えているという点です。にもかかわらず、上司や周囲の人間から「主体性がない」と評価されるのは、こうした認知ギャップの存在を示しています。

この認知ギャップは、単なる言葉の問題ではありません。実際の組織運営に大きな影響を与えています。例えば:

  • モチベーションの低下:自分では主体的に行動しているつもりなのに、それが認められないことでモチベーションが下がってしまいます。
  • エンゲージメントの減少:組織と個人の期待値のズレが大きくなると、仕事への熱中感も弱まります。
  • 離職リスクの増加:継続的な認知ギャップは、最終的に人材流出につながる可能性があります。全然すりあわないなーと感じている状態が続くのは誰でもイヤですもんね。
  • コミュニケーションコストの増大:お互いの「主体性」の認識が異なることで、無用な説明や調整が必要となり、生産性が低下します。

「主体性」に対する認知ギャップを埋めてみる

では、この認知ギャップ問題にどう対処すべきでしょうか?特に管理職や経営層の方々にとって、この問題への適切なアプローチは非常に重要だとつくづく感じます。以下は、少し意識するだけも状態が改善するのではないかと感じる、いくつかの具体的なポイントを書きます。

  1. 「主体性」の定義を明確にする:今この文脈で期待されている「主体性」のレベルや範囲を具体的に示し、共通理解・合意を形成します。
  2. 個々の「主体性」を理解する:一方的な評価はいったん横においてみて、各個人がどのように主体性を発揮しているかを丁寧に観察し、理解を深めます。
  3. フィードバックする:合意した内容に対して、現状採っている具体的な行動や成果に基づいたフィードバックを心がけます。
  4. 定期的な1on1ミーティング:上司と部下が定期的に対話の機会を持ち、互いの期待や認識のすり合わせを行います。

この中で特に大切なのは、1かもしれません。「主体性」という言葉の使い方自体を見直すことも大切だと感じます。「もっと主体的に」と言う代わりに、「こういう行動を期待している」と具体的に伝えることで、多くの誤解や認知ギャップを解消できるはずです。

組織がイイ感じに機能するには、多様な価値観と能力を持つメンバーが、それぞれの方法で主体的に貢献することで達成されます。その多様性を認識し、活かすことこそが、真の意味での「主体性」を引き出す鍵となるのではないでしょうか。

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