• 「パワー欲求を開発するにはまずパワーを知らなければ始まらない」

「パワー欲求を開発するにはまずパワーを知らなければ始まらない」

影響力と人への関心

前回に引き続いて「パワー欲求」について触れてみたいと思います。パワーとは「人と人の間を心理的に誘引させたり離反させたりする影響的作用である」と云えます。

即ち「パワー欲求」が低い人とは、「人に関心がない」若しくは「人嫌い」な人と云えます。こういう人がマネジメント活動をすると、

①責任ある仕事をほとんど委譲しない。

②下を批判はするがリワードは殆どしない。

③職場を統制して秩序付けない。

といった場面を多々生み出します。

 

何故こういうことになってしまうのでしょうか。「人に関心を持とうとしない」という心理状態は、以前に紹介した大人の発達障害に起因することもありますが、多くの場合は「自己存在感や自己効能感の不全」に由来しています。

後天的に何らかの理由で「対人における自尊感情」が低位となり、それが起因して「自らを認めたくない、また他人にも自分を認めさせたくないという感情」が芽生え、そのネガティブな感情が対人を遠ざける思考や行動を生み出してしまうのです。何故ネガティブかと云うと、人の本性は仲間を希求し、本来人に強い関心を示す存在だからです。つまりそれに逆行する心理状態ということは「心の何処かに傷を持っている」か「人とどう接して良いかが分からず対人に恐れを持っている」ということになります。私的には、最近では後者が増えている感があります。

 

心に傷を持っているとは、過去の体験で「対人関係上何らかの惨めな思いをした」ということです。例えば幼少期に虐めにあったとか、周りから無視をされた、誰かに裏切られたといった経験により、対人に後ろ向きの心を刻み込んでしまっているということで、そのことから無意識的に負の反応が出てしまう状態です。

従って、人に影響を持つとかマネジメントをするなど以ての外で、そうしたいとも欲しないのが本音です。そして、それをカバーしようと殆ど全てを自分自身でする様に努力を傾注させるわけです。

 

パワー欲求の開発と自尊観

このことは、視点を変えるとパワー欲求の開発に重要な示唆を与えてくれます。要は、パワー欲求は「自尊感情」のポジティブ化に伴って自動的に高まってくるということです。

自尊感情とは「他者と比較した中で自分の立ち位置をどう捉えるか」から発せられる感情反応です。人は他人から受け入れられて認められていると認知すれば、感情は安定し、他人に対して積極的になりますが、そうでないといわゆる感情的になったり、他人に対して消極的になったりします。何よりも見方のポジネガに影響します。

自尊感情の発露は自尊観(自己概念)に連動しています。自尊観がポジティブになれば、感情の発露も安定し、前向きな波長に変わります。そして前向きな波長は他人にも前向きな気持ちを共振させていきます。まさに「(彼を知り)己を知れば百戦危うからず」です。パワー欲求を上げるには、先ずは自分の自尊観を点検し、自己認知を変えて、自尊感情をポジティブに修正することです。

パワーの源泉

ところで、一言で「パワー」と云ってもその源泉は多様です。理論的には7つの領域があると分析されています。そして人によって好む、または反応するパワーも異なります。ですから他者に影響するには、その人に合ったパワーの使い方が重要になります。マネジメントは人によって異なるパワーへの反応をしっかりと読みとり、状況に合わせて影響を及ぼしていくリーダーシップ行動の方便です。

一般に企業において理解不足を思うのは、「マネジメント開発においての核となるのは、『マネジメント』と呼ばれる技術を身につけることではなく、様々なパワーを駆使して他者へ影響を与える『リーダーシップ』を身につけること」という事実です。従って、そこで絶対に外せないのはパワーを理解することとその使い方ということになります。

 

さて、そこで7つのパワーということになります。7つとは、専門力、情報力、人間力、権威力、報酬力、関係力、威圧力です。順に、「積極的に影響されたいパワー」から「仕方なく従うパワー」となります。ここで気が付かれる人もいらっしゃると思いますが、パワー自体には善し悪しも上下もありません。また消極的に反応するパワーにおいても受け手がネガティブばかりとは限らないのです。報酬も関係もそのパワーに反応する方が「動き甲斐がある」という人がいますし、専門や情報を煙たがる人もいます。何れにしてもパワーの鍵は影響ですから、ポイントは受け手が何処に関心を持ち、どれに強く反応するかが重要です。自分が強く関心を持ち反応するパワーに必ずしも他者が反応するとは限りません。大事なのは「人を見て法を説け」です。

因みに、人間力は「誰しもが魅力を持って心地良く従おうとして反応するパワー」ですが、関係力は「その人のコネを考えた上で利益に繋がるので従うパワー」です。また権威力は「その威力に進んで従う(時には仕方なく従う)パワー」ですし、威圧力は「その威力に仕方がなく従うパワー」です。このことからも浮き彫りになってくるのが、前出の側のパワーは論理性が高く人間的に成熟性が高い人に、後出になるに従って段々感情的で成熟性が低い人に有効なパワーであると云えます。

ともあれパワー欲求を高めるには、パワーを知り、パワーを幅広く使いこなせるようになることが必要です。そして状況や問題、或いは対人への感受性を高めることから、状況に応じてパワーをより有効に行使できるようになれば、その能力の錬磨と共に興味が向上し、欲求も芽生えてくることは確かです。それには実践を通して無意識無能から意識有能へと進化させるしかありません。学校秀才がヘッドトリップによって頭でっかちに机上で日々を送る限りでは身につかない暗黙知であり、まさに体験によって開発する実務の世界と云えます。

 

何れにせよパワーは人間が関係的に存在する上で必須となる観念であることは間違いのないところです。マネジャー人材として中核となる「リーダーシップ」に最も求められるのはパワー欲求であり、その開発こそが最重要課題であるということは注視すべき所と云えます。

 

さて皆さんは「ソモサン?」。