• モメンタムをマネジメントする。ドーパミンの本質的な作用を理解する ~ソモサン第306回 ~

モメンタムをマネジメントする。ドーパミンの本質的な作用を理解する ~ソモサン第306回 ~

今回も少し科学的な話をしましょう。脳科学では神経脳内物質からの視点と脳神経の伝達回路からの違いと同一という話をしましょう。学会と云うのは困ったもので、ユーザー視点と云いますか、結果は同じでも解釈の軸の違いによって多様な説明に拘り、理解の複雑化によって進展の弊害を生み出しています。それが心理を扱っている領域でもそうですから情けない話です。

平たく言いますとドーパミンの作用と交感神経の作用の話です。モメンタムにおいて何がどう作用しているかは行きつくところ同じなのですが、学者のメンツなのか解説プロセスによってユーザーに難解さを生み出して効果に対する普及に障害をきたしているわけです。では話を進めることに致しましょう。
交感神経と云いますとまず浮かぶのは「興奮」です。そしてそこに付随するのは「アドレナリン」という脳内伝達物質の存在です。一方モメンタムに出てくるそれはドーパミンです。この二つは何が違うのでしょうか。そもそも「アドレナリン」も「ドーパミン」の両方とも交感神経が優位の時に分泌され、脳や体を興奮状態にする物質です。ただ同じものを身体に取り込むほど人は非合理ではありません。必ず違った役割があります。「ドーパミン」が分泌されると人は幸福感を感じ、「アドレナリン」が分泌されるとやる気を感じるというのが根底の違いです。そして面白いのは、2つは全く別の物質ではなく、「ドーパミン」が変化したものが「アドレナリン」であるという関係にあるのが特徴です。ドーパミンとアドレナリンは、両方とも交感神経が優位な時に出されるホルモンですが、皆さんもご存じのように、交感神経は興奮・緊張している時、副交感神経はリラックスしているときに優位になります。
ところで先にも示しましたが、ドーパミンとは快感・幸福感を感じさせるホルモンで、見返りを得られる事柄を達成したときに分泌されます。それは実際にはまだ達成されていなくても、見返りを得られることを明確に思い描けたときにも分泌されます。例えば、次の場合です。
・試験に合格した(過去、結果)
・大きな仕事が終わりそう(未来、予測)

そう、目標を達成した場合は勿論のこととして、確実に目標達成が読めた時にでも、ドーパミンによって気持ちよさを感じるということが起き、それによって「また頑張ろう」という気持ちになり、むくむくと意欲が湧いてくるということが起きてきます。このようなことから、ドーパミンは「ハッピーホルモン」と呼ばれることもあります。でもこれだけでは仕事が終わりそうなときにドーパミンによって幸福感を得てしまい、最後まで頑張れないという現象が起きてしまいます。そこでアドレナリンの出番となってきます。「アドレナリンはやる気を引き起こすホルモン」で、興奮・緊張している時に分泌されますが、具体的には①心拍数・血圧の上昇、➁

末梢血管の収縮という作用をします。またアドレナリンはドーパミンが変化したものなので、ドーパミンが分泌された後は自動的にアドレナリンも発生し、幸福感がやる気へと繋がる仕組みになっています。
そうです。これによって勉強や仕事となどにおいての予測に対してでも、辛くても最後まで頑張れるという動きが起きてくるのです。つまりアドレナリンはドーパミン放出の後押しの役割を担った物質として、補完的な機能を持っているわけです。
ところでここで注視することがあります。それはドーパミンが「見返りを得られる事柄を達成したとき、とかそれが予測できた時」に分泌されるというところです。つまりドーパミンは感覚的な「気分」ではなく、思いによる「気持ち」での作用が強いということです。言い換えますと着火モメンタムよりも燃焼モメンタムによる影響が大きいということです。このことは神経伝達物質や神経反応的には、「着火」はアドレナリン、「燃焼」はドーパミンと云うように、刺激対象が違うということを認識してのアプローチが大事であるということを物語っているということです。
ここまで読まれた皆さん、改めてお気づきですか?ドーパミンは「やる気を起こす」原動力ではありません。それはアドレナリンの役割なのです。ドーパミンを幾ら刺激しても「やる気」は起きないのです。アドレナリンとドーパミン。どちらも、精神面を健康に保つために非常に重要なホルモンですが、アドレナリンが目標を達成するためにやる気を出させる役割なのに対して、ドーパミンは目標を達成したとき幸福感を与える役割です。この違いに対する認知は重要です。
では「幸福感を与える」ドーパミンが薄れるとどうなるのでしょうか。明確なのは「やる気の顕著な低下(無気力・鬱)が起きる」ということです。この影響は精神面にとどまらず、肉体機能の低下にまで及びます。パーキンソン病という、手足の関節が固くなるなどの症状が出る病気もドーパミンの不足によるということが知られています。
一方あれば良いというものでもありません。過剰な状態になりますと「幻覚や妄想(統合失調症・強迫性障害)」を引き起こします。また過食症状が出る場合もあります。要は「脳内が常時興奮状態になってしまうため、冷静さの欠如などに繋がってしまう」ということです。自助努力ではない薬物などによる他力なものでドーパミンを刺激しますと制御が出来ません。結果過剰状態を引き押し、精神崩壊に繋がってしまうわけです。一言で交感神経と云うのは容易いですが、厳密ことを捉えるならば、時々で主に作用し影響する物質(ホルモン)は異なるということを知っておくのは有効な知識だと云えます。
というのは、この分泌のメカニズムをきちんと知ることで、自分のやる気スイッチであるモメンタムの制御を操れるようになり、より効率的に頑張ることができるようになるからです。
興奮や緊張は交感神経を刺激してアドレナリンの分泌を促進します。その分泌はドーパミンの分泌にも影響し、気持ちは幸せ状態に傾き、心理をポジティブ状態に誘引させます。
そしてその興奮や緊張は「感覚器官」の刺激によってもたらされます。いわゆる五感です。これは中脳の領域が支配する反応です。昔はこの領域は生理的な領域として開発は出来ないと捉えられえて、後天的にはアプローチが出来ないと認知されてきました。「持って生まれたものは如何ともし難い」ということで、感性の領域は弄れないというのが常識だったと云えます。しかし最近の研究で照会されたように、ドーパミンの分泌など欲求動機への脳内作用が中脳だけでなく、大脳新皮質とも連動しているといったような新事実が分かってきたように、この領域は大脳新皮質の開発によっても開発可能ということが周知となってきました。そのことは、逆に大脳新皮質を刺激しない限りにおいては中脳による反応開発も能わないということになります。実際昨今感動ができない、感受性の乏しい人材が多出傾向にあります。感動や感受の経験不足が原因です。
皆さん、感受性の開発や感動と云った感情の開発は、経験の積み重ねと意識づけによって開発は可能だということが分かってきました。今やこれもマネジメントの重要な焦点になってきています。創造性は感情の喚起と切り離しては捉えられない領域だからです。興奮と緊張の体感。皆さん生ぬるい文化や風土では未来は生み出せませんよ。
では次回も何卒よろしくお願い申し上げます。

さて皆さんは「ソモサン」?