• モメンタムをマネジメントする、悔しいという気持ちを大事にする ~ソモサン第300回 ~

モメンタムをマネジメントする、悔しいという気持ちを大事にする ~ソモサン第300回 ~

時折モメンタムとモチベーションはどう違うのかと質問が来ます。これは「やる気」と「動機」との違いに似ています。やる気とは「行動を起こす前の段階で、欲求を満たしたいと思う瞬間的な感覚」です。一方モチベーションとは一般に「動機付け」と訳されますが、「動機」とは「行動を起こしてから、継続的にその欲求を満たそうとする気持ち」です。ここで云う欲求を「意欲」と呼んでいます。そしてモメンタムとはこの「やる気を湧き起こす力(瞬発力)」を云います。モチベーションが動機と云う意識を動かす気持ちであるとすれば、そのモチベーションという気持ちを点火させるきっかけになる気分がやる気であり、更にそのモチベーションややる気といった一連の流れを発生させる動的なエネルギーであり力、作用なのがモメンタムということになります。日本的には覇気と呼んでいる存在が最も違いかもしれません。動機が意識の一種であるのに対して、やる気はその深層にある感覚、感情の一種ということになります。そしてモメンタムはそれらを動かすエネルギー、パワーという位置づけになります。

さてそのモメンタムですが、モメンタムのエネルギー源はやはり何といっても「快感」になります。それも動的な心拍数や血流を生み出す「わくわく」「どきどき」といったリズミカルな、或いは「キュン」といったビートのある感覚、気分の体感です。また「笑い」のような体動的な体感もエネルギー源となってきます。

一方である種の「苦痛」も同様の効果をもたらすことがあります。例えば「怒り」や「苦しみ」といった感情です。一見ネガティブな感情の様ですが、「辛さ」のような「痛み」という体感覚がモメンタムを高める作用を持つ如く、心における痛みもモメンタムを高める力を持っています。しかしこういった感情はモメンタム的段階では良いのですが、それがモチベーションや動機といった段階に昇華していったとき、「負の意識や想念、そしてそれに根付いた行動」に繋がっていくことが多々あります。人は何よりも意図的感情としての「気持ち」の力が認知や想念、果ては思考、行動に影響を及ぼす性質を持っています。ですからマイナスやネガティブな要因によって引き起こされた感覚による「やる気」は最初は効果をもたらすのですが、最終的には好作用にはなり難いわけです。ただ繰り返しになりますが、モメンタムを発動する段階においては、例え負の感覚であっても、そういった感覚が「思い」の方向によっては生産的に力強いエネルギー源となる場合もあるわけです。

例えば「自噴」を導き出す感情として「悔しい」という感情があります。「悔しい」に繋がる感覚は怒りや苦しみといった感覚です。皆さんも多少なりには「くそー」という気持ちを持ったことがあると思います。ところで仏教用語で「なにくそ」は「何糞」ではなく、「何苦礎」と書いて、その意味は「何れの苦しみもそれを礎にする」ということなのだそうですが、この「悔しさ」が内包するエネルギーは、文字通り礎的に「やる気の種」になってきます。悔いとは「心残り」の状態ですから、その残りが何に対してなのかによっては大変有効なモメンタムの材料になり得るわけです。

この観点から見た場合、「悔しさ」がなくなった状態がモメンタムのエネルギーが枯渇した状態ということになり、「マインドレス」の状態になったと云うことが出来ます。この状態に陥りますと幾らマインドフルネスのアプローチをしてもそうそう「やる気」になったり活動状態になることは困難になります。またこの「悔しい」という気持ちが元々低い人(これは対人に関心が弱い人の特徴でもあります)などは同様の有り体と云えます。

多くのスポーツ選手が引退を口にするときに、「やり切った」という言葉と共に一様に口にするのが「悔しいと思う気持ちが持てなくなった」という言葉です。また一見才能はありそうなのに今一つ伸び悩む人に共通する特徴は、この「くそー」という言葉に隠された「もっと自分は出来る」「未だこんなものではない」といった「意欲」に繋がるエネルギーのポテンシャルが弱いということです。パフォーマンスは能力と意欲の掛け算ですが、どんなに能力があっても意欲が弱ければ結果を伴わないということです。

ともあれ「悔しい」と云う感情はモメンタムを高めるのには非常に重要な要素であることは間違いありません。大事なのはその悔しさがモチベーションという動機になる際に、ネガティブな想念になって、行動がマイナスに働かないように心の方向付けをしっかりと掛けることです。例えば必要以上のプレッシャーを自分に掛けて、それによって心が潰れたり折れてしまっては何にもなりません。また他責になって人を恨んだり、憎んでも仕方がありません。以前ご紹介させて頂いたインターナル/エクスターナル(自責/他責)診断などで、傾向が大きく片方に偏るタイプの人は、こういった「悔しい」といった感情に対して過剰的な反応による動機の歪みを生じさせる危険がありますので注意が必要です。悔しいというエネルギーの大きな感情を適度に自分に向けて、更なる努力の糧にするのが有効な意欲への繋ぎ方と云えるでしょう。

さて以上の様なことは、モメンタムのマネジメントにおいては非常に重要な視点になります。前回は「笑う」を通しての介入で、気持ちをポジティブ化させることから、緊張をほぐすという効果やお互いの信頼を作るといった一石二鳥の効果をもたらすことの有効性をお話しさせて頂きました。しかし「笑い」は緊張をほぐす反面、その弛緩から「心の緩み」を招いてしまう両面価値を持っています。人によっては自己統制によって適度の緩和を自分の柔軟性の回帰に繋いでモメンタムやパフォーマンスを高めれる人もいますが、人によってはそれが「だらしなさ」や「はしゃぎ」を招いて、却ってモメンタムのエネルギーを悪い方向としての行動に導いてしまうこともあります。例えば心底に隠れる「恐れや不安」に対する「笑って誤魔化す」といった逃げ口上や「油断」といった動機行動です。

こういったバランスは一人が内包的な思考や行動で統制するのはなかなかハードです。こういった時に力となるのが、第三者として客観的で中立的に振舞えるマネジャーやコーチの「エンパワー」行動です。エンパワーとは「勢い付け」とか「側面支援」といったモメンタムの調整やモチベーションの調整を行うことで当事者の行動の力加減や方向付けを加勢する活動です。

具体的には観察によって当事者の状態を把握した上で、その状態に見合った感情や思考への適時で適度な介入を行うことです。アイシグナルやボディタッチ、声掛け、指示と云った様々な行為によって当事者の心理的バランスを調整して最高のパフォーマンスを導き出すアプローチです。

それでは次回もよろしくお願い申し上げます。

ところで今回は300回記念です。それに合わせてというわけではありませんが、私的には今年の株主総会を持ちまして社長の座を降り、会長職になることにしました。ということで次回からは会長による「ソモサン」となります。心機一転。これからもよろしくお願い申し上げます。

さて皆さんは「ソモサン」?