モメンタムをマネジメントする、着火編再び ~ソモサン第297回~

前回は「自責と他責」のタイプという観点から人を見定めて有効な関係づくりをする技術を紹介させて頂きました。今回は私自身が経験した事例からソモサンを始めることに致しましょう。

ある会社で責任者を集めての会議があり、その中であるテーマに関してその会社の気風が非常にエクスターナル(他責的)で、全員に向けて「もっと立場と役目に責任自覚を持て。責任者としてその内責任を取らされますよ。そうなった時に気付いても遅いですよ」といったコメントをしました。自責/他責は個人だけではなく法人格的に集団にも存在します。偏りある特性を持った人の集まりの状態やその集団のリーダーの特性(主に権力的なおもね気)によって個人同様の癖が生じます。その典型が前回述べたアタッチメントによる「政治行動」(不安型リーダーの集団は集団内がネガティブ基調による政治的行動優先の風潮が生まれます)的規範とか集団的な他責文化の噴出です。事実この会社は大いなる他責規範でした。そこで先のコメントになったのですが、数日後ある若い責任者から辞表が出ました。理由は「責任を取らされると云われた」から、とのこと。私的には会議の場ですので全体に示しを述べたに過ぎず、寧ろ辞表を出した人以外の年長者向けだったのですが。何れにせよその責任者の上司からの相談で確認をしたら、この人、「極端な自責タイプ」とデータが出ました。加えてこの人は不安型アタッチメントです。これはもう軽はずみな行動に出るのは推して知るべしでした。

困ったのは、そういった状況を現場も知らないで口伝えだけで判断するこの会社の上位者の姿です。それ以降の指導がやり難くなったのは云うまでもありません。そういった上の態度がこの会社の文化を形成しているということが最も深刻な問題と云えます。

さてしばらく燃焼モメンタムのためのマネジメントアプローチについて話を進めて参りました。まずは「信頼関係づくり」を作るための効果的なアプローチとして「人を見て法を説く」の技術を取り上げてきましたが、次は如何にして相手の中に入ってくかという段階になります。その時に重要なのが「相手の気持ちを上手く盛り上げて前向きに揺さぶるというアプローチ」、心を着火させるというアプローチです。そこで今回は改めて着火モメンタムについて話を戻してみたいと思います。

着火モメンタムは気持ちと云うか感情に対して揺らぎを起こす行為です。感情、特に無意識的な情動は行動によって動きを起こしますが、その行動には感覚器官における動きも含まれます。人は五感と称する感覚作用を持っていますが、機能的には「視覚」「聴覚」「体感覚(嗅覚や味覚、触覚は体感覚です)」に大別されます。体感覚はある意味外延的行動感覚ですが、視覚や聴覚は内包的で外からは判別しにくい感覚で、人によっての受け取り方に多様性が大きく分かれる感覚です。ですからどういった感覚がその人に合うかは千差万別です(時に味覚や嗅覚も個性があるのも確かですが視覚聴覚ほどの差は出難い感覚です)。一般にはビジュアル指向性とか音楽性と表しますが、どの指向がその人の着火を促すかは人それぞれの個性を良く見極めないとなかなか分かり難いところがあります。しかしやはりDNAの歴史というのか、太古の記憶と云うのか原体質的に人に共通する好みや着火点はあるようです。視覚でいえば色合いにおける原色の在り様(例えば赤は興奮、青は沈静など)といったものです。絵画の場合、近代画の特徴は光と影を点描画的に表現した印象画が隆盛ですが、その中でも原色を前面にしたゴッホの絵画やフォーブ(野獣派)と称されるマチスなどの絵画などは、心をざわつかせたり沸き上がらせたりと興奮に繋がり、モメンタムを着火させるには大きく後押しする色使いや構図が描かれていますので、そういった絵画を鑑賞することはモメンタム着火に有効になります。

こういった作用は聴覚的な音楽などではより鮮明になります。最近の音楽は単に聴覚刺激だけではなく、視覚やダンスのような体感覚も複合させて、総合的にモメンタムを着火させる道具立てが揃ってきていますが、やはりその中心となる楽曲は聴覚刺激になります。

この聴覚刺激も視覚同様太古の記憶の如く、メロディの進化よりも以前からのリズム(ビート)が重要な役割を果たしています。リズムは特に気持ちを鎮静化させ、時に大きく気持ちを煽ります。近代は沈静以上に高揚を意図したリズムワークが隆盛で、特にバブル崩壊以後の社会的な沈滞する空気を払拭すべく、気持ちを高揚を煽るビートが音楽シーンの中心となり、その度合いは増すばかりです。またそういった音楽に気持ちの在り様を委託する風潮も大きくなってきています。スポーツ選手などの殆どは試合前に耳にイヤホンをして音楽を聴いたり、ビデオを見ていたりしています。テニスの大阪選手や野球のダルビッシュ選手など至る所でそういった光景を目にします。

バブル以後、ダンス音楽などを筆頭にモメンタムを上げる音楽が隆盛で、そのリズムの激しさはテンポを高めるばかりですが、特に今グローバルで中核的な音楽が「ヒップホップ」です。ヒップホップは「打ち込み」といったバックトラックにラップを乗せ、そこにブレイクダンスなどが加えた音楽です。今やそのダンスなどはスポーツとしてオリンピックの競技として取り上げられるような状態です。

このヒップホップ、民俗学的な研究によりますと、アフリカの奥地に今も残る「口頭伝承」や集団維持のための「グルービング」に最も近似しているということが分かってきています。つまり人間の最も原始的なコミュニケーションの技法に系譜が繋がってるというわけです。

グルーブとは、高揚感を表す用語で、リズムやテンポなどのリズム体(ベース、ドラムス、パーカッションなど)によって「ノリ」を作り出す表現です。そのノリがジャズ、ファンク、ソウル、R&Bなどブラックミュージックの音楽・演奏に関する表現に進化した経緯がありますが、まさにモメンタムを着火させるための音楽とマッチングしています。グルーヴで最も顕著なジャンルがヒップホップやレゲエです。

更にヒップホップに内容や話し方、韻を交えたメッセージを歌唱的に乗せて、韻律、リズミカルな演説、ストリートの言葉」を組み込み、ヒップホップやレゲエ特有のバックビートや伴奏などでグルーヴさせるのがラップです。感情的高揚としての着火を更に意味としての燃焼に繋げるのが歌詞や歌唱だとすると、ヒップホップを支えるラップはその役割にドンピシャに当てはまります。

現代においてこれだけラップやヒップホップが音楽シーンの中核になるということは、社会が着火や燃焼と云ったモメンタムのアップを切に望んでいるという証だと私は認識しているところです。次回はこういった表現を利用した着火モメンタムのマネジメントについてお話していこうと考えています。

それでは次回もよろしくお願い申し上げます。

 

さて皆さんは「ソモサン」?