モメンタムをマネジメントする、燃焼編➉ ソモサン第295回

人の感情的なエネルギーを沸き立たせて、その熱を集団によって更に相乗化させるチーム集中力は、まず行動の同期から生み出されます。その最善策は前回ご紹介させて頂いた「チーム参画意識」の向上にありますが、日常的にそう特別なことをしなくても、出社して周りの人と一緒に働いているという感覚を持つことも十分な「行動の同期」になります。大事なのは感情的な同時性です。人が持つ感情の揺らぎは刺激として人のモメンタムに影響を及ぼします。そしてチームの集中力アップに欠かせない要素としてどうしても外せないのが「明確な目標の提示」です。例えばスポーツにおける「勝つ」という目標は、間違いなくチームとしての集中状態を演出する武器になります。ところが仕事実務の場合、日々の与えられる課題の処理に追われているうちに、「何のために働いているのか」とか「この仕事をやることは本当に全体にとって意味があることなのか」「これは世の中の貢献に繋がっているのか」というような疑問や雑念が浮かんでくることがあります。それは集中を著しく阻害します。そういった要素を排除し、明確な成果をリアルにイメージさせることができれば、チームの集中力は格段に高まっていきます。それこそがマネジャーの最大の仕事であると云えます。そういった観点から捉えると、会社が「理念」や「クレド」を設けて、そこに行動を同期させるのは大きなマネジメントの支援になります。

グローバルでは従業員をオフィスに呼び戻すために、組織的に特典を増やしている会社も出てきています。JPモルガン社はニューヨークの最新鋭のグローバル本社を公開しましたが、ヨガやサイクリングルーム、瞑想スペース、アウトドアエリア、フードホールなど、シリコンバレー企業を思わせるアメニティが備わっています。

ところで、現代の認知論を中心に動いている心理学においては、ペンジルバニア大の故ベック教授による「認知行動療法」を主軸に認知という意識が人の心を作り出すという考え方がある意味常識になっています。でもフロイト、ユングに次ぐ第三の心理学の祖であるアドラー的には「認知や意識の変容には人生の三分の二の時間が掛かる」とのこと。単純に云えば「40歳で自分を変えたいと願った場合、それが為しえるのは意識続けて意識続けて60代まで係る」ということになります。理性から感情へのアプローチならば確かにそうなのだろうな、と思うところです。それを促進させたのがベックなどによる「対話方式」です。第三者の客観化を用いて「気づき」の促進を図るわけです。でもやはり論理という静態的な世界からのアプローチはかなり時間が係るものです。私的にはそれよりもベックの認知行動療法には一つの見落としがあるとみています。それは感情の動きです。ベックは認知論において「感情は認知から生まれる」と説いています。ですから療法においても、対話的に論理によるアプローチを主軸にしているのですが、実際に人の気づきが起きたり、認知が変わるのは「感情の揺れ」が生じた時です。つまり感情が認知に影響するわけです。人との対話の中で「これまでとは違った感情の揺れや沸き起こり」が生じ、それが原動力となって認知の在りようが動き出すわけです。私はこの感情的な力も「モメンタム」の一つであると捉えています。私は認知に関して、その流れは「感覚反射→情動(無意識的感情)→認知→感情(意図的感情)→行動」だと理解しています。禅の技法はこの感覚反射に意図的影響を与え、情動を操る技法だと捉えています。そこから認知変容を促す流れだと見ています。そしてこれを利用した療法が「マインドフルネス療法」です。カントによる論理優位のバイアスが基点なのが西洋式とすれば、禅による行動と感情優位のバイアスが東洋式です。そう何でも「西洋かぶれ」が良いわけではないということです。両者の良い面を組み合わせてものごとを捉えていくのが最善と私は見ています。本にも書きましたが、事実として脳科学においては「人の反応は認知(意識」よりもほんの瞬間早く行動や情動が動き出し、認知はその動きを後付けするために働きだす」という検証結果が出ています。それ故、私は行動から感情へのアプローチの方が実践的だと見ているわけです。

これに関しては親しいポジティブ心理学の日本の牽引者の方が仮説的にこう語っています。「知性(認知)が感情より優位にあるというのは、認知行動療法で理論化されたわけですが(感情と行動は、認知の結果として生じる)、今回、(受講された)セリグマンより、この理論について疑問を呈するような発言がありました。(今回の文脈で恩田が語っている)東洋思想が示すところに、セリグマンは気づいたのかもしれません。認知行動療法の祖師ベックは3年前に逝去しましたが、もしかすると今後、「認知」という概念の見直しが始まるのかもしれません」。

心理学の分野でもまた新しい動きが起き始めるかもしれませんね。大事なのは創造力と実践を重視した謙虚な姿勢だと信じる今日この頃です。次回は引き続きモメンタムをマネジメントするためのアプローチをご紹介して行く所存です。

それでは次回もよろしくお願い申し上げます。

 

さて皆さんは「ソモサン」?