• 組織にイノベーションをもたらす「モメンタムリーダーシップ」~ ソモサン第258回~

組織にイノベーションをもたらす「モメンタムリーダーシップ」~ ソモサン第258回~

軍隊型組織と武装勢力型組織からみる組織運営のマインド

前々から組織の基本は「軍隊」にあるということは理解していたのですが、そうでない形の存在をどの様に表現すればよいのか思案してきたところ、NHKで「リーマン・ショックは何故起きたのか」という特集があり、その中で「武装勢力」という言葉を聞き、「これだ」と腑に落ちる思いをしました。

NHKの中では、「そもそもリーマン・ショックの主因となった不動産債権への投資は何もリーマンだけの問題ではなく、その点でリーマンを問題視はできない」という紹介をしていました。私的にはその10年以上も前に日本で住専問題が起き、バブルが崩壊したという世界的な事例があるにも関わらず、それ以上の破綻を生み出した状況は、「人って本当に真面目に学習をしない、懲りない存在だ」ということを再確認したわけですが、NHK出演の専門家の方々は、「元々リスクとリターンは相関関係にあり、リスクがなければブレークスルーやイノベーションと云った成長は起きない」という観点でのコメントをされていて、その点は私も同意するところでした。確かに日本は政府という確固たる上意下達による護送船団方式の組織形態での動きしか経験がなく、リスクに尻込みをする風土が現状の経済環境を生み出しているからです。その上で専門家は「問題はリスク管理の在り方に対する組織の体勢にあった」と言及していました。そこで出てきたのが「軍隊型組織」と「武装勢力型組織」という概念でした。軍隊とはちょうど「アメリカの海軍」のような形であり、武装勢力とは「中東のアルカイダ」のような形を指します。

先生たちの説明ですと、軍隊とは「リスクに対して撤退できる」「止めるルールがはっきりしている」ということで、推進活動に対して部門間での一定のチェック機能が働かせられたり、撤退に際してのルールが決められており、それは例えトップであっても遵守すべき決め事として、組織的統制として明示されている存在である、とのことです。リーマン・ブラザーズがいた金融業界においてはゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーなどがそういった会社です。

一方、武装勢力とは「組織的な縛りや監視が弱く、自由に攻める時には非常に強いが守りに弱い」「チェック機能やルールがないので撤退するときにガードが掛からない」、暴走する体勢を抱えており、リーダーの影響がダイレクトになる存在である、とのこと。

リーマンショックでは不動産債権買いが苛烈化した際に、ゴールドマンやモルガンは買い控えに転じたのに対し、リーマンは当時の強烈なファルドCEOの指揮命令によって勢いを留めるどころか、債権会社の買収といった極端な動きにまで突き進んでしまいます。

この中で、こういった組織問題に目が向かない原因の一つとして、対応バイアスという歪みも紹介されていました。対応バイアスとは「問題発生に対して外的要因を考慮せず、個人的要因を重視してそこに責任を負わせ過ぎるという、根本的な帰属の誤り」のことです。いわゆる「アイツのせいだ」という奴です。そうした方が解釈や解決が楽なので安易に事実を歪めてしまう捉え方です。昔は「死人に口なし」といって事故の責任を何でも個人の問題に押し付ける傾向が多々ありましたが、これでは根本的な問題解決は遠ざかるばかりです。

私はこの「軍隊」と「武装勢力」を「企業」と「家業」と称して区分けしていますが、創業的なオーナー企業や急成長の企業でこういった武装勢力型経営における破綻を良く目にします。特に顕著なのは経営が右肩下がりになったり、環境がアゲインストになった時にこの問題は企業の命運を左右する足かせとなって浮上してきます。事業には関心があっても経営に関心のないトップの組織で頻出する問題です。

リーマンの場合、当時のアメリカの統制の問題がショックを後押ししたことも見逃せないところです。アメリカはリスクテイクは社会生活上当たり前の価値観として、あくまでもリスク問題は自己責任的な事由であり、それを管理するのは当事者という自由主義をベースに統治していました。その為にリーマンショックが起きた際、それを支援するか見放すかに対しての制度や監視体制がなく、判断がブレブレで、手が遅れたことも重要な視点になります。国家の思想が裏目に出たわけです。

皆さんもご承知のように日本はこの真逆の体制です。国家開闢以来、天皇制を支柱として(現在もマインド的にはそうです)、親方日の丸の官主導的な統制的経済システムです。これは先の逆ですから「守り」には非常に強いですが、「攻め」は統制され、リスク耐性が非常に弱い経営環境を生み出します。現状の金融政策的にはこれが海外に比してプラスに作用していますが、事業経営的にはイノベーションやブレークスルーは生み出しにくい空気感を作り出しています。そう大事なのはバランスです。しかしグローバル化の中で、そろそろ日本も「自己選択、自己決定、自己責任」という大人の三要素を身に着けた経営姿勢がないと大波に飲まれてしまうことは間違いありません。ファルドの十分の一位のリスクに対する度胸が経営者には求められます。それには今のような経営者教育や組織の出世評価体制では夢のまた夢であることは否めない話と言えます。

目的意識を自分の中で醸成するための4つのアプローチ

では「リスクに対する度胸と決断」というのはどういう過程で育まれるのでしょうか。私は「人生目的」の生成と「経験学習による心的耐性」の醸成に尽きると思っています。

物理学的にエネルギーを定義すると運動を起こすのは須らく運動エネルギーの作用ということになります。そして運動エネルギを起こすのは「位置エネルギー」と「熱エネルギー」の二つのエネルギーになります。運動を高めるには運動エネルギーを上げる必要がありますが、当然運動エネルギーを高めるには位置エネルギーを上げるか、熱エネルギーを高めるか、両者を高めるかによって、そのエネルギーを運動エネルギーに転換する必要が出てきます。

私は自然界の法則に従って、心を動かす活動エネルギーも物理的エネルギーと同じ理屈での作用をすると捉えています。「リスクに対する度胸と決断」というのは「運動エネルギー」と同じと解釈しています。そして心的な運動エネルギーを高めるには、心において位置エネルギーに値するエネルギーや熱エネルギーに値するエネルギーを高める必要があると見ています。そして心においての位置エネルギーを意志エネルギー、熱エネルギーを情熱エネルギーと解釈しています。つまり心的な運動である「心の活動エネルギー」を高めるには、意志エネルギーを高めるか、情熱エネルギーを高めるか、両者を高めるかで、そのエネルギーを心の活動エネルギーに転換する必要があるということになります。端的に言えば、「思いを高める」のは「志を強く持つか、情熱を高めるか」次第である、ということになります。

この「思いを高める」起爆になるのが「クールモメンタム」です。クールモメンタムとは「強く持った志」を「思い起こし」たり、「より強める」働きをしたり、「情熱を燃焼させる」働きをする「勢いづけ」を担う「心の触媒」です。物理の場合、位置エネルギーを運動エネルギーに転換するきっかけとなるのは「手放す」ことです。水力発電が好例ですが、ダムに蓄えた水のエネルギーが電力に変わるのは、水が重力に向けて開放されるからです。これはエネルギーを堰き止めている扉を開くということで生まれます。心のエネルギーも理屈は同じです。心の場合、これは滞っている気持ちや思いを開放するということになります。要は「拘りや思い込み」といった堰となっているネガティブな気持ちを手放すことです。具体的には「自分に言い聞かせる」とか「自己暗示を掛ける」といったアプローチです。「クリティカルシンク」などもその一つと言えます。高校の運動で過酷な練習をさせる理由の一つとして、体力よりも精神力を養うという考え方があります。これは「根性論」というよりも、「これだけ練習してきたのに出来ないはずがない」といった「合理的な言い聞かせ(自問自答)によってネガティブな幻想を論理的に払拭させる意味合いが強いとされています。また人は繰り返しによる言葉の刷り込みは(例えば俺はできる俺はできるといった)、意外にも自己洗脳的(いい意味で)な効果を発揮して、次第に「本当にできる」と頭が錯覚することも知られています。しかしこういったアプローチは「位置エネルギー自体」が高くなければエネルギー不足になります。心の位置は「意志」です。「やれるもやれない」も「出来るも出来ない」も全ては「何を」「何のために」が必須条件になります。ですから「意志エネルギー」に対してはお膳立てがないといけません。それは「志」つまり「目的意識」、それも「人生の生き方」に向けた「目的」への思いや考えが大事になります。

一般に「人生の目的」が形成される過程は大きく四つの形があると考えられます。一つは無垢な年齢の時に植え付けられた「使命感」のような意識です。これは両親などといった周りの人達の言動や振る舞いから啓発される場合もありますし、寺や神社のような場による「教え」、または偉人の伝記などからの影響といったものもあります。結構インパクトが強いのは実体験による感動です。例えば「自分や大事な人の病気や事故を助けてもらった」といった体験は深く心に刺さります。二つ目は「感動的な体験」「楽しい体験」による憧憬があります。「自分もやってみたい」「自分もなってみたい」といった気持ちの高揚です。これは偉人への同一化と似ている面があります。三つ目は自分自身の「楽しい」「気持ち良い」といった「心沸き立つ体感的経験」です。「人前で話した」「人前で踊った」「人から褒められた」「感謝された」「人の役に立った」といった体感で、特に成功体験による高揚感は一度味わうと忘れがたいものとなります。そしていずれもそれを他者から応援されたり理屈付けられたりと後押しされると思いはより確固たるものになっていきます。最後はいわゆる「悟り」という思いです。酸いも甘いも嗅ぎ分けた経験の中から自らの目的を中庸的に置いた生き方です。死生観とか達観という言葉もありますが、禅では「少欲足るを知る」といっていかなる場合でも心が乱れぬような微動だとしない心構えを目的に描く場合です。「私には確たる目的はない」という人の中にはこういった視点の違った「思い」を人生の目的にする人もいらっしゃいます。「囚われず、拘らず」。

教養を高めるために「感情の指向性」に目を向けよう

ともあれ平凡な庶民的にはやはり前向きな「何らかの目的意識」を持って生活するのが心身ともに健全でいられますし、「やる気」や「動機」も湧いてきます。クールモメンタムはこの「目的意識」を刺激するアプローチですから、これ自体がないとなかなか大変な事態となります。目的意識を生み出す端緒はやはり「教養」です。教養を高めるには情報接触を増やす以外には手がありません。特に刺激になるのが歴史や地理的な情報刺激を増やすことです。そして「何故どうして」「そしたらどうなる」という思考の柔軟性を作ることです。クイズや謎解きモノなどがその一助となります。でもそれ自体が結構面倒くさいのも確かです。それを飛躍的に高めてくれるのはやはり他者との接触です。会話や会合は労せずして自らの視野を広げてくれます。近来マネジメントもそこが焦点になっています。

こういった意識を高めるにおいて注意すべきは「感情の指向性」への気遣いです。「ポジかネガかということを意識してネガからは極力遠ざかる意識を持つ」ということです。先のダムの話がそうですが、位置エネルギーが高い、つまりは意志が強ければ強いほど、その方向づけを間違えると力が暴走して却ってマイナス状態に陥るということを見逃してはなりません。ダムで言えばポジティブに方向づければ電力ですが、扱いを間違えてネガティブに暴走させれば、洪水になってしまうということです。

さてクールモメンタムは、熱エネルギーを活動のエネルギーに変えるきっかけも担っています。心の熱エネルギーは情熱エネルギーです。情熱は激しく高まった気持ちですが、通常ある物事に向かって気持ちが燃え立つことを意味します。つまり情熱には「向かうべき物事」があるということです。言い換えると「目的やその意味に対して持つ気持ち」です。物理的には位置エネルギーと運動エネルギーは内包的に保存関係にありますが、そのエネルギーを増減させる外延的なエネルギーとして熱エネルギーが関わっています。運動エネルギーは位置エネルギーの量だけしか作用できませんが、そこに熱エネルギーを作用させると運動エネルギーは幾らでも増大させることが出来るという図式になってきます。心の活動エネルギーで云いますと、「情熱エネルギー」の作用のさせ方次第で「活動エネルギー」は増加させれるということです。クールモメンタムはホットモメンタムのアプローチを活用したり、添加させたり、組み合わせたりすることで「思い」のエネルギーを増大させる働きをします。そしてここでのポイントがポジティブに誘引させるホットモメンタムのアプローチを巧みに使うということです。その真骨頂が音や音楽が持つポジティブ性です。

人は韻律を好む習性がありますが、日本人の場合七・五調の音数律を好む傾向が強いようです。この音数律の中で心を軽くしたりポジティブに乗せる音数律が、俳句や川柳と都々逸の音数律です。短歌の音数律は七という陰律で終わり、心を整える韻律です。俳句は五・七・五、都々逸は七・七・七・五の音数律に従い、五という陽律で終わる盛り上げリズムのある韻律です。これを利用して自らの目的や思いを音数律に乗せて情熱エネルギーを添加させながら、自らを意識付け、時には暗示を行ってクールモメンタムを発動させるのがペップ・トークというアプローチになります。

「三千世界の 鴉を殺し ぬしと朝寝(添い寝)が してみたい(高杉晋作作ではないかと云われています)」などが知られていますが、都々逸は恋愛話モノが多いのが特徴です。

このリズムやメロディーワークを利用したクールモメンタムは自らの心情に沿った、あるいは鼓舞するような詩を持った楽曲を使って行うアプローチもあります。もちろん鼻歌や口笛、つぶやき、口ずさみなどは能動的でより効果が高まります。カラオケや自らの楽器演奏などはもっと高揚しますし、自作自演の楽曲ならば最早云うことはありません。

また絵画や映画のような映像的なものも「意味を持った内容」であり、それが「それが自分の気持ちを高揚させる方向性」を持ったものであれば効果は滴面になります。自分の得意感覚にあったアプローチをしてみて下さい。

それでは皆さん、次回のソモサンも何卒よろしくお願い申しあげます。

さて皆さんは「ソモサン」?