ペップトークを実践してみませんか ~ソモサン第199回~
皆さんおはようございます。今回は前回からの続きで、ポジティブマネジャーが実践している中核にある「ペップトーク」の具体的な技術について言及していきたいと思います。
ショートソモサン①:組織変革のスタート地点を考えよう:利他的な人ほど自分事、利己的なは人ほど他人事。
前回より話題にしている心の変容ですが、心的態度や価値観と言った「意」のレベルへのアプローチはホント非常に困難な領域です。
皆さんも時折お耳にすると思いますが、「他人事(人ごと)」という言葉があります。対するのは「自分事(我ごと)」です。こうやって長くブログを書いていると、時折その内容について話題になることがあります。その際、「この人は本当に分かっているのかな」と思うことがあります。内容的に「あなたもそうなんだが」と思うのですが、その意は伝わらず、内容を「他人事」的に「そういうことあるよね」「そういう人いるよね」と言った塩梅に「知」レベルで理解を口にする人が良くいるからです。時には「これはあなたを想定して書いたんだけれども、本人はわかっていないんだなー」といったことさえある位です。
一方で今度は真逆に何でも自分に置き換えて考える人がいます。「あれは私のことですよね」と言ってくるのですが、こちらとしては一般事例で書いたわけで、ことさら誰かを対象にしたわけでもなく、返事に窮する時があります。それが好意的な場合はいざ知らず、恨めしい面持ちで言われた時には閉口します。
さように人とは千差万別な存在です。しかし総じて、内容を一度は「自分に置き換えて考えられる人」の方が人としての力を身に付けている確率が高いし、また品性が高まっていく様に思えます。そう言った人は利他的なセンスを持っている、人のことを思いやれる意を持ち合わせているからです。こういう人たちに共通するのは、心的態度が柔軟な人が多いということです。元々ポジティブな心的態度とは、集団活動を基調とする人間社会において、社会の発展や維持に向けてベクトルが方向づく姿勢、平たく言えば人と協調して共生しようとする態度です。人との間を良好にしようとする態度への自ら調整や切り替えをしていくことに対して抵抗感がありません。
これは価値観においても同様です。価値観が心的態度よりも変容が困難なのは、価値観は人それぞれがその人なりに大切にしている信条などで、その人にとってはポジティブな心理概念だからです。そうした本人としてポジティブに受け止めていることを否定して手放すのは難しいのです。
それでもなお利他的な人の方が価値観変容においても柔軟なのは、人類の長い歴史の中の学習で、集団として共生や協働した方が安全で豊かになると遺伝子レベルで刻印されており、そう言った人の方が優秀だと認知されているからに他なりません。
しかし昨今では「他人事」の人がどんどん増えているように感じています。丁度浅慮な人が増えるのと歩調を合わせるかの如く、内観することができない人が増殖しているような気がします。
グローバリゼーションやアジリティが高まる中で、将来の見通しがどんどん立たなくなり、政治もビジネスも混迷を深める一方なのに、柔軟性がなく、ネガティブな人材が相乗するように増えているのは暗澹たるところです。
そして、そうした人たちは問題意識自体が低いことが多く、自力で気付きを起こすことが出来ません。この状況で少しでも事態を改善するためにはどうすれば良いのでしょうか。誰かが何らかのアクションを起こさなければなりません。隗より始めよ、です。
今やマネジメントの立場の仕事は、その一点に尽きます。
ショートソモサン②:自力内省ははポジティブな動機づけから~まずは受容すること~
ではどういうアプローチが有効な方法か。それがペップトークです。ペップトークとはポジティブ・アサーションの一つです。
アサーションとは「効果的な対話を促す主張」という意味です。ポジティブな気持ちで相手に自分の意を効果的に伝える技術です。ペップトークはエレベータ・トークというプレゼンテーション技法と似ています。エレベータ・トークとは、忙しいエグゼクティブや滅多に会えない人に対して、エレベータに乗っている時間内で情報供与をする技法です。その時間内に相手をポジティブに動機付け、同時に必要な情報をインプットしなければなりません。通常は3分内と言われています。ペップトークはそれを1分に押えて相手をやる気に誘動するアサーション技術です。
前回ペップトークの一端をご紹介させていただきました。今回はもう少し掘り下げてみましょう。
ペップトークには4つの段階があります。
① 受容:事実の受け入れと共感
② 承認:認知のポジティブ変換
③ 起動:言動や行動への助言と方向づけ
④ 期待:勇気づけとポジティブ感情の注入
この4つの内容は前回も触れたポジティブ・マネジャーの4要件(①寄り添う ②気づかせる ③未来へ導く ④勇気づける)に対する行動指針です。
まず導入としての受容から話を進めましょう。受容は相手を受け入れることから、何よりも相手の胸襟を開いて、相手にポジティブな気持ちを注ぎ込み、気持ちをニュートラルにして貰うアプローチです。
受容には2つの要素があります。
一つは気持ちを受け入れることで、相手をポジティブに誘動するという要素です。
(気持ちには2種類ある)
短期的気持ち:緊張や不安、心配、恐怖
中長期的気持ち:不信や疑惑、嫌悪、怨讐
どちらにせよネガティブで心に萎縮を生み出します。心の熱量が下がり、心のドアが閉じてしまっては何を言っても耳には入りません。
最初にすべきは心の熱量が少しでも上がるようにチャージして、それによって天の岩戸を開くことです。
重要なのは相手が否定的心境になっている時に、いきなり否定的なアプローチをしないということです。利己的な人は、すぐに相手の意を操って気持ちを変えさせようと、結論を求めて否定的に介入しようとします。「何、緊張しているんだ」「元気出せ」と言った具合です。これは逆効果です。「この人は自分の気持ちを分かってくれない」「所詮自分には関心がないのだ」と心を強く閉ざしてしまいます。
また軽い共感も行けません。「分かるよ」という投げかけは、「何が分かるんだ」と撥ね付けられるのがオチです。未だ心の架け橋が架かっていないのに、浅い声掛けは通用しません。
この場合はとにかく寄り添うことです。ニュートラルに接して気持ちを汲もうとすることです。この場合に効果的なのは、「当然」や「体感」の反応です。つまり「当然=誰でもそうなるのは当然」とか「体感=自分にも経験がある」という孤立からの脱却の援助によって、安心感を注入することです。そして気持ちを安定させ、心の向きをポジティブ方向に向かせることです。
<受容に必要なシグナルマネジメントについて>
これをより有効に行うにはまず相手の気持ちを読み取らねばなりません。それには相手の立場や視点から感情の状態を感受するしかありません。その上でその気持ちに寄り添うことが重要です。この時には、今度は相手を安心させるような言動や行動が求められるようになります。こういった感情の起伏は殆どが非言語の態度・表情に現れます。また言語的にもイントネーションや口調、言い回しなどに現れて来ます。こう言った人の非言語的なコミュニケーション、特にボディ・ランゲージを推し測り、有効な受発信を生み出す技術がシグナル・マネジメントです。 シグナル・マネジメントとは、人の感情を表現する際のコトバやカラダによるサインを読み取ったり、相手に効果的の送るアプローチです。
(閑話休題)
先週面白い記事がネットで紹介されていたので、その要約を皆さんにもご案内致します。
「最新の研究で、“おもてなし”のプロである温泉宿のベテラン女将が、想像以上に瞬時に客の表情を読んでいるという、思わぬ能力を発揮していることが明らかになった。自然科学研究機構・生理学研究所(愛知県岡崎市)の柿木隆介名誉教授らのグループは市内にある温泉宿の女将さんらの脳波を測定する実験を実施。この中で世界で初めて「おもてなし」を客観的に解明したと発表した。実験では、50~60歳のベテランを中心に20~70歳の女将さんら女性21人の「おもてなしグループ」と、全く接客業をしたことがない同世代19人の「コントロールグループ」に、“無表情”“笑った顔”“怒った顔”の3種類の画像を見せて脳波を計測。さらに、それぞれの画像が「好ましい」と思ったかのアンケートを実施した。人間の脳は「どんな画像」を見ても約100ミリ秒(0.1秒)後に「P100成分」という脳波が大きくなり、この「P100成分」を調べると、女将さんらの「おもてなしグループ」の方が有意に大きくなることが判明したのだ。特に「無表情」と「怒った顔」を見たときが大きかったという。このことから、女将さんのようなおもてなしに長けた人は、「P100成分」で素早く表情を読み取っているとしている。また、表情の「好ましさ」に関するアンケート調査では、全体的に「おもてなしグループ」の点数が低く、特に無表情の顔を見た時に、その評価が有意に低い(好ましくない)と判断。おもてなしに長けた人は、相手の表情をより正確に読み取り、シビアに評価していると考えられるとのことだ。研究チームは「今回の結果から、おもてなしを行うためにトレーニングや接客を行っている人たちは、顔ならび表情の情報処理が一般の人とは異なることが示された」としている。また、この研究結果は、対人コミュニケーションが苦手な人などのトレーニングへの応用が期待されるという。
今回の実験では、素早く表情を読み取るだけでなく、女将に大切な別のおもてなしスキルも示されたという。おもてなしの場合、まずは客の様子を見ることから始まる。この実験で女将さんらは「笑い顔」にはあまり興味を示さなかった。笑顔のお客さんには特別の注意を払う必要が無いからである。注意が必要なのは、楽しませるべき温泉旅館に来たのに、無表情あるいは怒った顔のお客さんなので、一般の人よりも非常に鋭敏に反応する。ただし、この判断はほとんど無意識に行っている。反応的に「P100成分(0.1秒後)」には差があったが、「N170成分(0.17秒後)」は違いが見られなかったという結果が出た。この理由として、0.1秒の段階で鋭敏に反応したのが、それを持続しては心の動揺が表面に出るので、それを見せないために非常に短い時間のうちに(約0.07秒)、心に抑制をかけるために反応が小さくなったと判断される。コロナ禍はマスクを着用しているが、表情を読む「おもてなし」にも影響は出ているかということにおいて、女将さんたちは目元で表情を十分に読み取れると言っている。実際、これまでの研究でも顔認知には目が極めて重要だとされています。楽しめていないお客さんの表情を瞬時に察知するが心の動揺は出さない。おもてなしのプロによる“表情の読み取り”のすごさがわかったのが今回の研究結果だった。」
シグナル・マネジメントの力が垣間見える記事です。
ショートソモサン③:状況(現実)を受容する
さて、受容の2つ目の要素は、相手の置かれている状況や立ち位置、背景を受容する、ということです。状況とは相手に起きている状態、起こっている出来事です。それを良し悪しといった評価判断でなく、事実としてニュートラルに受け止めます。
その上で出来ていることと出来ていないこと、足りていることと足りていないこと、強みと弱みを共通認識していきます。それをニュートラルに論理的に見つめるように気持ちを誘導していくのがコツになります。
この時、ややネガティブに流されがちになることがままあります。事実は事実ですから、ある程度は仕方がありません。次にそれをポジティブ的視点に切り替えるのですから、あまりそれを気にしては次の段階に進めなくなります。
だからこそ最初の段階での
・気持ちに寄り添うポジティブ・エネルギーの充填
・鼓舞するための心の架け橋の構築
・リーダーシップ発揮に向けてのパワーの保持
が大事になります。(最後はリーダーシップを使った外的影響によるレジリエンスの創造を演出する局面です。) ここで注意すべきは、無理矢理リーダーシップを使って、ポジティブにリードしようとしないことです。これは返って心理的抵抗を生んだり、逆に萎縮の度を増したり、それ以上に今後の信頼関係を打ち壊すことに繋がります。重要なのは、あくまでも事実データをネガティブ側面だけでなく、ポジティブ側面も提示し、相手に気付きを促し、判断の場を広げる支援をすることです。ここでもシグナル・マネジメントでの表情や振る舞いの演出が大きく役に立ってきます。穏やかにかつ自信ある表現や態度、表情を演出しながらアプローチすると効果が倍増します。
まずは感情のニュートラル化です。さて次の段階は「承認」ですが、これは次回ゆっくりとお話しと思います。
因みにペップトークは「コトバ」に力点を置いたポジティブ・アプローチの必殺技です。主に自力更生が難しい人(現実は圧倒的にこういう人の方が多い)や局面において他者支援、特にマネジメントにおいて力を発揮しますが、セルフ・マネジメントにも効果を発揮します。例えばレジリエンスやモメンタムの開発や向上においても絶大な効果を発揮します。
それでは引き続き次回をお楽しみに。
さて皆さんは「ソモサン」?