人の行動に働く論理と心理の働きの相違に目を向けましょう

~正論おじさん事件~

知と意を語る上で外せない学問が心理学です。人が関わる物事には必ず表層的な論理と裏に隠れる心理があります。欧米ではコンテントとプロセスというような視点で区分けをしています。コンテントとは取り上げている話の内容そのもののことで、プロセスとはそこで起きている心の動きを云います。

例えば、先般三重県松阪で「正論おじさん」という話題がありました。商店街の街路に立て看板が出ていて、それを老人が見咎めて執拗にクレームを付けたという事件です。道路交通法によれば例え1ミリでも違反すれば処罰の対象になるというのが老人の主張で、それ該当する店々にしつこくクレームを付けたわけですが、マスコミはそれの是非を話題にしていました。

この行動のきっかけは、「点字ブロックの上にモノが置いてあり、それを警察に言ったが、警察が何もしなかった」という事らしいです。マスコミでは、老人の主張は正しいが、現実の状況から見ればそれはやり過ぎだとかそのやり方から見れば老人の方がおかしいという論点で議論されていました。

確かに論理的視点では確かな論点です。ところが誰もその老人が、何故そのような物議を起こしたかという論点には触れようとはしません。この話をプロセス、つまり心理的な視点で捉えると、孤独な老人が注目を浴びたいが故に不用な騒ぎを起こしているという見方もできます。ところがマスコミを見ている限り誰もその視点に立っての発言をしないのです。誰もが全くプロセスに触れようとしない、気が付かない今の日本人の感受性の在り方に何か薄ら寒い異常さを抱くのはおかしなことでしょうか

~人の心に目を向ける~

人の心に目が向かない行為は、今まさに社会的な課題となっている大人の発達障害の問題と重なります。発達障害には3つの世界があります。この中でASD(自閉スペクトラム)という自分の好きな話やその内容には関心が持てるが、言葉の比喩や裏の意味といった背景に潜む心理には全く関心が持てないという日常生活に困難を及ぼす障害がありますが、今の日本人は個人以上に社会的な風潮としてこういった歪みを生み出して来ているようです。

日本人が得意とし海外から敬意を払われる「おもてなし」とか「勿体ない」という行動様式はまさに人に対しての感受性からもたらされる美徳ですが、これが日を追うごとに失われていっているのではないかと危惧するところです。

一体何時から日本はこのような味気ない社会になってしまったのでしょうか。私は意を軽視して知に偏重した教育を指導した政策やそれを担う立場にあった人達の、それこそ意のない活動の責任は大きいと見ています。まあ過去を取り沙汰しても戻っては来ません。求められるのは未来を見据えての気付きと次にどう動くかに尽きると思います。微力であっても私なりに人の心理をもっと真摯に扱っていく必要性を訴えるばかりです。

さてこういった人の心が起こす弊害の主たる世界に防衛規制があります。防衛規制はストレスのような心理の歪みや精神的負担を解消しようとする意に関わる本能的な反応です。元々は心が折れないために身に付けている能力ですが、これが利己のためだけに働き、それが他者犠牲を伴うようであれば問題です。

ところが最近感受性の軽視から至るところで防衛規制の暴走が起き、これが社会的なストレスを加速的に蔓延させる結果を導いています。防衛規制はネガな意が情に作用し、その感情の圧力が知の働きにも影響してしまう厄介な認知行動の作用です。

防衛規制の一部をご紹介しましょう。

          抑圧:防衛機制の典型。不安や葛藤を無意識に追いやります。思いがあってもそれが叶わないと思ったとき、端から興味がないと言い聞かして心を押し込めます。ひょんなことで言い間違ったり聞き間違ったりで露呈したりします。

          知性化:物事をやたら難しく語り、理屈によって感情を押し殺そうとします。感情の弱さや自信のなさの胡麻化しです。

          合理化:最も良くやる防衛です。自分にとっての都合の悪さを自分だけに納得のいく理由付けをして正当化します。いわゆる言い訳です。

          投影:自分の中のネガを認めたくないときに他の人にそれを押しつけます。自分が相手を苦手なのに、相手が自分を苦手としてるように言い触らします。

          反動形成:自分の思いと反対の態度や行動を取ります。好きな人に冷たくしたり、嫌いな人を持ち上げたりします。

          代償:欲求が満たされないときに、それと似た別のモノで埋め合わせようとします。子供が独り立ちした親がペットを溺愛したり、頭の悪さを体力自慢で補おうとしたりします。

          逃避:現実から目を背け、不安から逃げようとします。朝、急に体調が悪くなったり、仕事をしようとすると急に掃除を始めたりします。

          同一化:有名人や偉い人に自分を重ね合わせて自己を評価したりします。際だったファッションへ拘ったりします。

          転位:抑圧した感情を別の対象に向けます。上司からの叱責によるわだかまりを家族やパートナーに向けます。

          錯誤行為:心に思っている本音が、ポロッと出てしまいます。特に気にしている事象や言葉に対してその語を言い間違えたり、過剰反応してみたり、異常に拘ったり、聞き間違えたりします。

          昇華:自分の不安やネガな感情を社会的に有意なことに転化しようとします。スポーツにのめり込んだり、仕事に打ち込んだりします。防衛のポジティブな側面です。

 

このような防衛規制が自分の言動や行動に現れているとき、人は生産的な行動をしていません。むしろ他者にとって弊害になっています。そして防衛規制は殆どの場合無意識で発動する心理反応です。これらを抑制して生産的な行動や関係を築くには、きちんと心理を学んでしっかりと内観し自己制御(セルフコントロール)の力を作り出すことです。

そしてこういった力の強化が引いてはプロセスを見る目を養い、他者とより生産性を高める行動をも生み出していきます。

因みに正論おじさんに働いている防衛規制が何であるか、これを練習台としてお考えいただくのは心理を啓発するにはかなり有効な入り口ですよ。

さて皆さんは「ソモサン?」。